往年の名手が紹介する、メキシコの“歌う”ヴァイオリニスト
長年にわたりメキシコを拠点にして演奏活動をしながら、弦楽器専門学校「アカデミア・ユリコ・クロヌマ」の設立など教育活動にも深く携わってきた、往年のヴァイオリニスト黒沼ユリ子。現在は房総の地・御宿で、定期的にサロンコンサートを主催し、さまざまな演奏家を招いている。

10月に同地でリサイタルを開くのが、ヴァイオリンのアドリアン・ユストゥス。メキシコ生まれ、同専門学校に入って黒沼に師事し、ヘンリク・シェリング国際ヴァイオリンコンクール金賞などの受賞歴も誇り、国内外で活躍してきた名奏者である。初来日は1985年の「日本メキシコ友好コンサート」。黒沼はかねて彼を特別なヴァイオリニストと高く評価してきて、「人生の喜怒哀楽をヴァイオリンで語り、歌う演奏家」と絶賛を惜しまない。そのユストゥスの音色をいまこそ改めて聴いてほしい、という思いのこもるリサイタルが実現する。
内外の名演奏家の信頼厚い渡辺美穂のピアノとともに、ユストゥスにしかできないであろう、魅力的な6曲のプログラムを用意。フランス・バロックのルクレールとウィーン古典派モーツァルトのソナタに、近代フランスのイザイの無伴奏ソナタ第2番で、彼の技術と構築力、歌心をしっかり聴かせる。続いて、20世紀メキシコの作曲家から、アルフォンソ・デ・エリアスとレヴエルタスの小品集をたっぷり奏でて、最後に19世紀ハンガリーのリスト「ハンガリー狂詩曲第6番」で超絶技巧もみせる。特にユストゥスが弾くメキシコ作品は、他では体験できない聴きものになるはず。秋の御宿で、ヴァイオリンの“歌”を堪能する。
文:林昌英