第13回 国際オーボエコンクール・東京

文:松本學

 オーケストラの中に初めて加わった管楽器と言われるオーボエ。開演前のチューニングを司る楽器でもあり、オーケストラの中では全体や管セクションの支柱として、時に甘やかな、また時に軽妙なソロを担う、まさに花形ともいうべき存在だ。
 この楽器に特化したコンクールである「国際オーボエコンクール」(主催:ソニー音楽財団)が、この秋、第13回を迎える。これまで東京〜軽井沢〜東京と何度か場所を移しながら3年に一度催されてきた同コンクールだが、2021年は新型コロナウイルスのパンデミックで中止となってしまったので、実に5年ぶりの開催となる。

第12回・表彰式より (c)K.Miura

 本コンクールは、「国際」とは名ばかりのドメスティックなものとは異なり、応募者のレベルと数、会場サイズ、本選でのオーケストラとのコンチェルト、表彰面などのプロジェクトの規模の点でも、またその出身者がロイヤル・コンセルトヘボウ管やロンドン響、パリ・オペラ座、ゲヴァントハウス管、ベルリン・ドイツ響、フィラデルフィア管など錚々たるオーケストラに入団している実績面から見ても、オーボエのコンクールとして、ミュンヘンと並ぶ世界二大コンクールのひとつと言える。そのような貴重なコンクールの再開は本当に喜ばしく価値あることだ。
 第13回となる今回は、これまで30年以上にわたって積み重ねてきた国際コンクールとしての“重み”の中に、前回までとは異なる変化が見受けられる。何より大きいのは、オーボエ界のレジェンド、モーリス・ブルグが審査の現場を退いたこと。仕方がないこととはいえ本当に残念だ。だが、代わりに現在の若手奏者の中で飛び抜けた才能を放つラモン・オルテガ=ケロがその任を継いだことで新たな魅力も生まれた。また小畑善昭氏に代わり、1985年の当コンクール第1回で最上位となった辻功氏も加わり、審査委員の世代交代がスムーズに進んでいる。一方、シンシナティ響のドワイト・ペリーは第12回に続き参加。これは欧州勢だけでなく、スタイルの異なるアメリカン・オーボエの視点を審査に組み込もうという目配りのよさを感じさせる。

バランスのよい課題曲

 課題曲は、例年通り第1次予選ではバロックと近代のセット、第2次ではバロックと技巧性の高い近現代作品、およびコンチェルトの3つを組み合わせたミニリサイタル形式、そして本選ではクァルテットとコンチェルトと、コンテスタントの総合力をバランスよく測れる内容となっている。これは審査委員長のハンスイェルク・シェレンベルガーも語るように「各候補者がその精緻なテクニックを披露するだけでなく、課題曲それぞれの作曲家が意図する音楽をしっかりと表現・演奏できること」を審査するためである。

ハンスイェルク・シェレンベルガー(審査委員長)

 と同時にオーディエンスにとっても、これらの予選の各回は実に興味深い。実際これまで多くのコンクールに接してきて、華やかな本選もよいが、得られる情報量は各予選の現場でこそとても多いと感じる。たとえば第1次では、バロックはよいのに近代が力不足、逆に近代は達者なのにバロックでリズムのセンスや様式感に欠けるといった現象が頻繁に見られ、両者共に適性を発揮するのがなかなかに難しいことが体感できる。
 今回は初めての試みとして第1次予選は動画による審査となり、ウェブサイトでその動画を公開している。テレマンの冒頭を少し聴き比べるだけで、コンテスタントそれぞれで表現する音楽がこんなにも違ってくるのかと驚くはず。こちらもぜひ試聴してみていただきたい。
 また今回の本選では、リヒャルト・シュトラウスのコンチェルトにモーツァルトのオーボエ四重奏曲が組み合わせられた。フレージングやブレスをどうとるか、オーケストラに匹敵するパワーとうっとりさせる弱音をいかに十全に使い分けるか、など注目する点は多い。さらにコンチェルトでは山下一史指揮の東京フィル、四重奏曲では毛利文香(ヴァイオリン)、田原綾子(ヴィオラ)、水野優也(チェロ)ととびきりの名手を共演者に揃えているのも魅力である。

前回コンクールの本選・クァルテットの演奏 (c)K.Miura

実力派揃いのコンテスタント

 今回の総応募者は当コンクール史上最多の231人。この中には前回からの再応募者が10名ほど含まれるが、顔ぶれがまた豪華だ。コンセルトヘボウ管に入ったアレクサンダー・クリメル、ベルリン・ドイツ・オペラのハン・イジェ、パリ室内管のイリエス・ブファデン、ハノーファー州立歌劇場管のエレノア・ルイース・ドッドフォード、九響の裵紗蘭、仙台フィルの高橋鐘汰、そして現在ベルリン放送響で代行を務めているマリアノ・エステバン=バルコやフリーランスとして各地で活躍するアンヘル・ルイス・サンチェス=モレノまでもが名を連ねている。この他にも、昨年の日本音楽コンクールで第1位に輝いた榎かぐやから、マーラー・ユーゲント管やカラヤン・アカデミー、ヴェルビエ祝祭管などの新旧メンバーもエントリーしており、コンクールというよりも、さながら世界のオーボエの演奏者を知り、最先端のサウンドが聴けるオーボエ・フェスティバル的な様相を呈してしている。このコンクールに触れれば、今後のコンサートでオーボエを聴く耳が大きく変わるはずだ。

前回コンクールの本選・コンチェルトの演奏 (c)K.Miura

 コンクールでは、予選の途中からその場の空気を味方につけたかのように輝きを増してくるコンテスタントが往々にして現れる。優れた才能がさらに成長してゆく姿を目の当たりにし、高揚と興奮を感じられるのもコンクールの醍醐味である。ぜひ予選から追いかけていただきたい。

【Information】
第13回 国際オーボエコンクール・東京

〈第1次予選〉
2023.8/31(木)~9/11(月)※動画公開期間
〈第2次予選〉
2023.10/3(火)、10/5(木)、10/6(金)各日11:15~18:00(予定) 武蔵野市民文化会館 小ホール
〈本選〉
10/8(日)10:00~17:00(予定) 武蔵野市民文化会館 大ホール
〈表彰式〉
10/8(日)18:30(予定) 武蔵野市民文化会館 大ホール

〈入賞者&審査委員コンサート〉
10/9(月・祝)15:00 武蔵野市民文化会館 大ホール

問:ソニー音楽財団03-3515-5261
https://oboec.jp

※コンクールの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。