松波恵子(チェロ)

“サイトウ”に薫陶を受けたレジェンドがみせるドイツ・ソナタの系譜

 日本のチェロ界で大きな役割を果たしてきた松波恵子が2019年以来となるリサイタルを開催する。今回のプログラムはベートーヴェンのチェロ・ソナタ第5番、ヒンデミットの無伴奏チェロ・ソナタ op.25-3、リヒャルト・シュトラウスのチェロ・ソナタというドイツものが中心だ。

 「前回はショパン、シューマン、ベートーヴェンという組み合わせでしたので、今回はより現代に寄った選曲となりました。実はヒンデミットは私の最初のリサイタルでも取り上げた作品でしたが、改めて向き合ってみると、当時とはまったく違う風景も見えてきて、とても興味深いです。R.シュトラウスは本当に初期の作品ですが、その若さの煌めきというか、勢いも感じさせてくれますね。特にテーマを決めてリサイタルを開いている訳ではなく、その時に弾きたいと思った作品を中心に選んでいます」

 松波は東京都出身で、9歳からチェロを始めた。

 「齋藤秀雄先生に師事したのは桐朋学園高等学校音楽科からで、そのまま大学に進み、齋藤先生の薦めでアンドレ・ナヴァラ先生に師事するためにパリに留学しました。齋藤先生は『ナヴァラのバッハの演奏が良い』とおっしゃっていて、おそらく日本での公演をお聴きになったのだろうと思いますが、そのひと言でナヴァラ先生に師事しようと思ったのでした」

 フランスから帰国後は、新日本フィルハーモニー交響楽団の首席奏者を務め、サイトウ・キネン・オーケストラにも創設時から参加し、水戸室内管弦楽団のメンバーでもあった。現在も後進の指導などで活躍している。

 「ヒンデミットに関して言うと、ナヴァラ先生にもレッスンを受けたのですが、彼は『僕にはこの作品は理解できない』とおっしゃっていたことを思い出します。当時はどこか難しさを感じる作品だったのでしょう。でも、今では、コンクールの課題曲にも採用されていますし、時代が変わったということですね」

 齋藤門下としては菅野博文と同級生で、一年下に藤原真理がいた。

 「チェロの門下生は実は少なくて、私の学年が4人もいたのは例外的でした。齋藤先生はチェロだけではなく、指揮もヴァイオリンもピアノも教えていらっしゃったので、とてもお忙しかった。特に室内楽には力を入れていらして、お互いに聴き合うということを学びました。それがオーケストラの演奏にも非常に役立ったのです」

 師である齋藤秀雄は来年没後50年を迎える。それを前に、松波の新たな挑戦に注目したい。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2023年9月号より)

松波恵子 チェロリサイタル
2023.9/18(月・祝)17:00 サントリーホール ブルーローズ(小)
問:ヒラサ・オフィス03-5727-8830
https://www.hirasaoffice06.com