「憧憬」という想念は、芸術においていかに発想や表現の大きな原動力となりうるのか、この言葉をタイトルに掲げた酒井有彩のセカンドアルバムがそれを伝える。酒井にとって思い出深いライプツィヒ、そしてそこに集った19世紀ロマン派の音楽家たちに想いを馳せ、シューマンやメンデルスゾーンの作品、ブゾーニやタールベルクらの編曲作品を収めた。選曲には「変奏」も軸に置いており、内省的な表情から甘美・壮麗な響きまで起伏に富み、ロマン的な時代の空気を感じさせる。酒井の奏でる煌めくような音色には、愛情とともに、どこかノスタルジーも香り立つ。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ2023年9月号より)
【information】
SACD『憧憬/酒井有彩』
シューマン:アベッグ変奏曲、「ミルテの花」より〈くるみの木〉(レヴィンソン編)/メンデルスゾーン:厳格なる変奏曲、歌の翼に(タールベルク編)/J.S.バッハ(ブゾーニ編):無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番より「シャコンヌ」 他
酒井有彩(ピアノ)
オクタヴィア・レコード
OVCT-00205 ¥3850(税込)