
シュテファン・ヴラダーは、今はなきフリードリヒ・グルダやパウル・バドゥラ=スコダと同じく、生粋のウィーンっ子である。1985年、ウィーンで開催された第7回ベートーヴェン国際ピアノコンクールで最年少優勝を果たして以来、活躍を続けてきた。母校であるウィーン国立音楽大学のピアノ科教授も99年からつとめており、「音楽の都」の光輝を受け継ぎ、次世代に受け渡す役割も担う存在である。
7月15日のフィリアホールでの来日リサイタルでは、ベートーヴェンの「月光」と「熱情」の2曲のピアノ・ソナタ、そしてシューベルトのピアノ・ソナタ第21番という、ウィーン王道の名曲3曲を演奏する。いずれも早くから弾きつづけてきた作品だが、ベテランの域に達した現在の彼の演奏は、どんなものになるだろうか。本人によると、若いころはベートーヴェンの作品も素直に弾いていたが、近年はより緩急と強弱の変化の幅を大きく、表情を際立たせることを意識するようになったという。けっして奇をてらうわけではなく、楽譜を深く読み込むことで、よりラディカルに、鮮度の高い演奏となったのだ。シューベルトの最後のソナタの雄大なスケールも、同様に彫琢をより深めてくることだろう。
近年は指揮活動も増え、その経験がピアニストとしての視野も広げ、表現をより豊かにしたという。この点もききどころだ。
文:山崎浩太郎
(ぶらあぼ2025年4月号より)
シュテファン・ヴラダー ピアノ・リサイタル
2025.7/15(火)19:00 神奈川/フィリアホール
問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831
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