INTERVIEW 本名徹次(指揮/新作オペラ《アニオー姫》プロジェクト代表)

100年、200年上演され続ける作品になるよう最後の瞬間まで努力したい

 日本からベトナムにわたり18年、ベトナム国立交響楽団 音楽監督兼首席指揮者として長く活躍を続ける本名徹次。彼がプロジェクト代表・総監督を務める新作オペラ《アニオー姫》日本公演の開催が発表された。9月のベトナム公演(世界初演)に続き、11月、日本でも《アニオー姫》を振ることになる。
 ベトナムを代表する作曲家チャン・マィン・フンによるこのオペラは、日本とベトナムの外交関係樹立50周年を記念して制作されるもので、史実をもとにした、17世紀初頭の日本人商人とベトナム王女の愛の物語。朱印船貿易が盛んだったこの時代、王女は後に長崎に移住し、現地の人々から「アニオーさん」として親しまれ、鎖国という時代の波にもまれながらも生涯を長崎で過ごした。アニオー姫の輿入れの様子は、今も長崎の祭事「長崎くんち」において、7年に一度「御朱印船」の演目で再現され続けている。
 本名に、自身とベトナムとの関係、この作品にかける思いをきいた。

――どのようなきっかけでベトナムに行かれたのですか?

 2000年10月に名古屋フィルとのアジアツアーでハノイに行った時でした。夜の出店の、裸電球の温かくノスタルジックな光にまず心をつかまれました。そして、リハーサル前にオペラハウスの客席に座っていた時、ふと目に入ったエンブレムに書いてあった1911という年号を見て、僕の大好きなマーラーの交響曲第9番を、没後100年の2011年に、ここで振りたい! と思ったのです。
 なんとかして戻ってきたいと思っていたところ、その公演のソリストだったチェロのゴー・ホアン・クアンさんが終演後に「Help me!」「戻ってきてくれ!」って言ってくれたんですね。何をするんだ? ときいたら、「指揮をして、みんなを教えて…全部だ!」と(笑)。戻ってくるきっかけを見つけたいと思った直後だったので嬉しかったですね。
 2005年からベトナムに住んでいて、もう日本には家がありません!(笑)

ベトナム国立交響楽団を指揮する本名(ご本人提供)

――今回初演される《アニオー姫》にも登場する日本の商人・荒木宗太郎と同じくベトナムにやってきた本名さんですが、この作品のストーリーを知ったのはいつですか?

 20年くらい前にベトナムで知りました。ベトナムには日本人もたくさんいて、今は1万人くらいいるようです。作中と同じ17世紀のころは、僕たちが想像している以上の大航海時代で、日本や中国などからたくさんの商人がベトナムに来ていました。今でもホイアン(*)の地面を掘ると有田焼の焼き物がいっぱい出てくるそうです。

*ホイアン:作中にも登場するかつての港湾都市。ノスタルジックな古い街並みは観光名所としても親しまれ、世界文化遺産にも登録されている。

――《アニオー姫》の物語は現地ではどれくらい知られているのでしょうか?

 知る人ぞ知る、という感じでしょうか。ホイアンでは知っている人は多いですし、ベトナムで日本のことを研究している方の中には知っている人ももちろん多いですが、まだ一般的ではありません。
 《アニオー姫》の話は日本とベトナムの関係を象徴するような物語で、日本では7年に一度、長崎の「おくんち」という、お祭りの中のひとつの催しとして取り上げられていますね。

――この物語をオペラにしようと思ったのはなぜですか?

 オペラには永遠性があります。良い作品になった場合、100年、200年と上演され続ける可能性があります。それを期待したいし、そういうオペラにするべく最後の瞬間まで努力したいです。

――ポストを持つベトナム国立交響楽団と、これまで色んな国との記念事業をされてきたと思いますが、今回は日越外交関係樹立50周年記念。意気込みをお願いします。

 共同事業は広がるんです。今回もベトナム人と日本人が協働して、そこから必ず何かが生まれると思います。ベトナム国立交響楽団と20年間作り上げてきた味わいを、日本の皆さんにも感じてもらいたいです。これまで何度も共演しているベトナムの歌手たちとは本当に家族みたいな間柄で、そんな彼らとの集大成となる公演になると思います。

――日本のお客様にメッセージをお願いします。

 ベトナムの人と文化を、音楽を通じてを感じていただける絶好の機会だと思います。表情を見たり音を聴いたり、オペラを観て多くのことを感じていただけると嬉しいです。

取材・文・写真:編集部

本名徹次(指揮)
 1957年福島県出身。名古屋フィルハーモニー交響楽団とのアジアツアーを機にベトナム国立交響楽団との縁が始まり2001年より指揮、2009年音楽監督兼首席指揮者に就任し現在に至る。2010年ハノイ遷都千年祭の記念公演ではマーラー交響曲第8番「千人の交響曲」を指揮、その後同団を率いてアメリカ、イタリア、ロシアツアーを成功させた。日越外交関係樹立40周年(2013年)と45周年(18年)には日本ツアーを行い好評を博した。
 東京芸術大学在学中より指揮活動を開始、国内はもとよりミラノ・スカラ座管、ミラノヴェルディ管、プラハ放送響など数多くのオーケストラを指揮。
 東京国際音楽コンクール最高位、トスカニーニ国際指揮者コンクール第2位、ブダペスト国際指揮者コンクール優勝など受賞歴多数。2012年長年のベトナム音楽界への貢献に対しベトナム政府より文化功労賞を、18年にはベトナム各国友好組織連合会より諸国平和友好記念章を、19年には渡邊暁雄音楽基金特別賞を授与された。

【Information】
日越外交関係樹立50周年記念 新作オペラ《アニオー姫》
朱印船が結んだ玉華姫と荒木宗太郎の恋


ベトナム公演(世界初演)
2023.9/22(金)、9/23(土)、9/24(日) ハノイオペラハウス


日本プレミア公演
11/4(土)14:00 昭和女子大学 人見記念講堂


総監督:本名徹次
作曲:チャン・マィン・フン
原作:新作オペラ「アニオー姫」プロジェクト 原作チーム
演出 戯曲 作詞(日本語):大山大輔
作詞(ベトナム語):ハー・クアン・ミン

出演
アニオー姫(玉華姫):ダオ・トー・ロアン(ベトナム公演/日本公演) ブイ・ティ・チャン(ベトナム公演)
荒木宗太郎:小堀勇介(ベトナム公演/日本公演) 山本耕平(ベトナム公演)
占い師:ファム・カイン・ゴック
グエン王:ダオ・マック
お后:グエン・トゥ・クイン
大臣:グエン・フイ・ドゥック
長崎奉行:伊藤貴之(ベトナム公演) 斉木健詞(日本公演)
家須:川越未晴

共同制作
ベトナム国立交響楽団、ベトナム国立オペラバレエ団

新作オペラ「アニオー姫」プロジェクト
https://anio-opera.jp