子安ゆかり(ピアノ)

リート・ピアニストとしての歩みを凝縮した記念公演

 酷暑の夏は、歌曲の爽やかさをお勧め。来る8月、ドイツ歌曲の解釈で名高いピアニスト子安ゆかりが、コンサートシリーズ「Die Taubenpost(鳩の使い)」の50回の節目として、一日がかりの記念公演「リートの祝祭」を開催する。構成は三部に分かれるが、午後1時から9時過ぎまでの長大な演奏会だけに、チラシには何十名もの顔写真が並び、まさに、「史上初、200年の時を越えるリートの旅路」を目の当たりにするよう。

 「実は、昨年が50回目の予定でして、ドイツでお世話になったディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ先生の没後10年にもあたりますので、何かイベントをやりたいと考えました。結果、コロナ禍で一年延びましたが、より多くの方々の協力が得られました」

 当日は、ソプラノ梶山明美、メゾソプラノ加納悦子、バスバリトン木村善明といった高名な歌い手から新進気鋭のピアニストまで、幅広い世代がステージに集う。演奏される曲の数は…

 「108曲です!」

 なんと、人間の煩悩の数と同じとは! でも、歌曲の名作とはそれだけ多くの「心の襞」から生まれたものだろう。このステージから、実に多彩な心模様が聴き取れるに違いない。

 「ありがとうございます。第1部は『リート史パノラマ』(リートの誕生から現代に至るまで)として、さまざまな作曲家を1曲ずつお聴きいただきます。モーツァルトの〈すみれ〉やメンデルスゾーンの〈歌の翼に〉など人気の曲も多いです。第2部は代表的なリート作曲家を集中して取り上げます。具体的には〈アヴェ・マリア〉のシューベルトや〈はすの花〉のシューマン、それにブラームス、ヴォルフ、R.シュトラウスの5人です。最後の第3部では、第1部に出てこなかったシマノフスキやリゲティなども含め20世紀から21世紀の曲をご紹介し、3人の詩人に光をあてた曲目、そして最後には重唱曲を披露する『グランドフィナーレ』も設けました。当日は、演奏者自身が訳し、私が監修した歌詞対訳つきのプログラムを販売します。お手に取っていただければ幸いです」

 ドイツ留学中は、大ソプラノのシュヴァルツコップフからも多くを学んだ子安。この名花が自ら、レガートで歌う見本を示した姿が忘れ難いという。子安自身はリート界の今をどう考えるのか?

 「リートは歌手とピアニストが対等に位置し、作曲家と詩人とで作り上げる総合芸術です。言葉の壁はあっても、日本人はその深みに共感しやすいと思います。大掛かりな演奏会ですが、それだけに、リートの魅力を余すことなくお伝えできるのではないかと思います。ご来場お待ちしています!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2023年8月号より)

リートの祝祭~Die Taubenpost 第50回記念公演~
2023.8/26(土)
【第1部】13:00 【第2部】16:00 【第3部】18:30
紀尾井ホール
問:ヤタベ・ミュージック・アソシエイツ03-3787-5106 
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