柴田俊幸のCROSS TALK 〜古楽とその先と〜
Vol.9 平崎真弓(ヴァイオリン)

平崎真弓(H) なんだろうな、ベルリンで活躍したC.P.E. バッハというだけで、何かベルリン血のつながりを感じさせる、そのような演奏をさせてくれるアンサンブルですね。特にバッハの息子たちの音楽に対して伝統を強く感じますね。

ワイマール Weimar でLEGOで作られたバッハと

柴田俊幸(S) ホーランド・スクール(注2)って作品に対してある程度距離感を持って演奏しているところがあると思います。良くも悪くも、熱くなりすぎない。初期のヘレヴェッヘとかラ・プティット・バンドとか特そうですし。それとは全く異なるAKAMUSの演奏、特にC.P.E. バッハって「火山のマグマ」「ベルリンの軍隊」って感じでピリッとしています。血の通った、というか…古楽やモダンに関係なく、それまで続いてきたベルリンを感じさせてくれる集団ですね。

(注2)オランダ、ベルギーで発展した古楽奏法の流派。レオンハルト、ブリュッヘン、クイケン兄弟のあたり。

♪ Chapter 3 変わりゆく古楽の着地点

S 近年古楽がメインストリーム化して、演奏会のために頭数(特に弦楽器)が必要になった結果、同じスクールの人たちだけが集まって演奏会をするということが難しくなったことも関係していると思います。

H 昔に比べて、YouTubeをはじめインターネットなどで手軽に情報も入るようになったので、簡単に始められるというのも一つの理由かもしれませんよ。ブームになることで、長所も短所も両方見えてきますよね。

S 古楽がメインストリーム化していくというのは、スクールの色が薄くなるという点では、少し残念に思われることもあるかもしれませんね。

H その思いは、やはり古楽復興運動を始めた世代に近いほど、感じることなのかもしれませんね。私も自分より下の世代の人たちにどうやって古楽が伝わっているのか、もちろん気になります。上の世代から我々に伝わったように、次の世代に伝わっているかというと、必ずしもそうではないと思います。

S 我々古楽している人たちって、食べ物だけじゃなくて(笑)色々こだわりが強いと思うのですが、平崎さんのこだわりって何ですか?

H 楽器の選択というところでは絶対に妥協はしません。そこを妥協していると難しいですね…。どこの国で勉強しても、どんな立派な学校で勉強したとしても、時代違いの楽器のセッティングで楽器を演奏している方と出くわすことも少なくありません。古楽の世界でも残念ながらよく見かけます。教える立場になってからは特に、絶対に生徒に対して妥協をしません。そこが奏法を学び始める以前に大事な根本の部分だと思うのです。料理であれば、調理する前に新鮮な素材を準備すること。その後の調理方法も素材の新鮮さによって変わってくることもあるかと思います。

 同僚とも話しますが、チン・オフをする、しないで世界が変わるということを一番大事なテーマにしていくことでだけではなく、これからもいい意味で「中庸」を探し始める時代にもなっていくと思っています。伝統を守ってきた人たちの意見を最大限にリスペクトした上で、新しい世代の人とのアプローチの仕方も作っていく。ただ、それがどこになるのか? 音楽の歴史の流れからしても、ドイツがその点で優れた国になる可能性は大きいと思います。

 しかし、これは自分がドイツに住んでいることで物の見方が大きく左右されているのもあると思いますが…。

♪ Chapter 4 あいらぶギエルミ、あいらぶバッハ

S 平崎さんの演奏は、日本で聴いたロレンツォ・ギエルミとの室内楽が初めてだったと思います。とってもいい演奏会だったことを覚えています。彼とは素晴らしい出会いだったんですよね?

H はい! 今でも覚えています。ニュルンベルクの国際オルガン週間だったと思います。最前列で彼の演奏を聴いて…ブックレットがボロボロになるまで聴き潰した彼のCDを持って行って「私、ファンなんです!」って言ったら、私のオルガンの先生が「違うじゃないか、君はヴァイオリンを弾く生徒でしょうが」って(笑)。

 そのときの出会いに加え、2008年に受けたブルージュの古楽コンクールで審査員であったヴィオラ・ダ・ガンバ奏者ヴィットリオ・ギエルミ氏(ロレンツォの弟)との出会いからも、一緒に音楽を作るご縁に恵まれました。

 ロレンツォは音楽の真髄を追求する人だから、表面的な効果を考えて演奏を一切しない方なんです。本当に、彼からは音楽へのアプローチの仕方と鍵盤の発音から、弦楽器に可能な音のイメージをたくさん学びました。ロレンツォが鍵盤を弾くと、これはフルート、これはオーボエって色々なイメージが湧いてくるんですよね。チェンバロでもオルガンでもそれに相応する楽器のイメージを持って演奏する。多声音楽の中でも全ての声部がとてもクリアで、そこにコミュニケーションが存在するのです。彼の演奏を聴いていると、美味しいご飯を食べた後、満ち足りているけどまったく重く苦しくはない、そんな気分がするのです。

S しかし、古楽をやる我々にとって、こういうバッハ=古楽をテーマにした音楽祭ってとってもありがたい存在ですよね。そんな「テューリンゲン・バッハ週間」に参加している真弓さんの思う「バッハの精神」、教えてください。

H 私にとってバッハは、子どもの時から常に一緒で、なくてはならない存在です。自分の中の栄養素の一つですね。信仰、宗教という切り口だけでなく、メッセージを送る強さの部分にハッとするというか、バッハは「どうして自分がこの音楽を弾いていて、これからどう進みたいのか、どうして自分が今この道をたどっていきたいのか」という音楽の原点とそれに向かう精神を教えてくれるというか……そういう作曲家です。人間ですから、いつもうまくいくなんて絶対ありませんけれど、そんな時こそバッハは「これからも音楽をしていきたいんだ」と思わせてくれる存在です。

 話は変わりますが、もう少し時間ができたら、オルガンでバッハ、また練習したいですね。家にはチェンバロとクラヴィコードがあって…いつか家にパイプオルガンが欲しいですね。最後の夢!

S 教会に住みましょう! でも寒いからなー。昨日なんか、5、6℃しかないなかで演奏して。寒かったです(笑)。

H 今日も寒いから、どうしよう…。でも我々日本人にはユニクロのスーパーウルトラヒートテックやホカロンという優れものがあるので(笑)。

S 僕もお世話になっています。便利ですよね。音楽祭のスポンサーになって、ヒートテックを着て教会で演奏している人の写真を広告に使ってほしいです(笑)。

 あ、もうプローべの時間ですね。テューリンゲン・バッハ週間、アットホームで、とっても素晴らしい音楽祭だと思います。次はこの場所で共演できることを心から願っています!

H どうもありがとうございます! 5月は、バロックではなく、モーツァルトの新鮮なプログラムで、素晴らしいフォルテピアノ奏者のクリスティアン・ベザイデンホウト氏との日本公演を行います。彼や聴衆の皆様と共有させていただけるモーツァルト・プログラムの演奏を、今からとても楽しみにしております!

取材協力:Thüringer Bachwochen /園田順子(音楽学博士)

バッハが4週間にわたり収監されていたことを示すプレート(Bastille Weimar)

◎平崎真弓&クリスティアン・ベザイデンホウト デュオ・リサイタル 日本公演スケジュール
2023.5/10(水)19:00 東京/トッパンホール
5/11(木)14:00 東京文化会館小ホール

5/13(土)14:00 兵庫県立芸術文化センター神戸女学院小ホール

◎柴田俊幸
柴田俊幸(フラウト・トラヴェルソ)無伴奏リサイタル in 西の京 やまぐち
2023.5/20(土)14:00 山口県政資料館(山口県議会旧議事堂)
柴田俊幸 バロックフルート リサイタル
5/21(日) 11:30 大分/帆足本家 酒造蔵
ムジークフェストなら2023 中野振一郎(チェンバロ)&柴田俊幸(フルート)
5/27(土)16:30 奈良県コンベンションセンター 天平ホール
リアル古楽 in 広島 〈オール・バッハ・プログラム〉
5/28(日)18:00 日本基督教団 広島流川教会


平崎真弓
Mayumi Hirasaki, violin

© Harald Hoffmann

東京藝術大学音楽学部附属音楽高校を経て、同大学音楽学部在学中、2001年秋よりドイツ・ニュルンベルク音楽大学に留学、ダニエル・ゲーデに師事。05年ディプロムを最優秀で取得後、07年に同音楽院マイスタークラスにてドイツ国家演奏家資格を取得。2006年、第15回J.S.バッハ国際コンクール(ライプツィヒ)においてモダン・ヴァイオリンで第2位。2007年よりミュンヘン音楽演劇大学にてバロック・ヴァイオリンをメアリー・ウティガーに師事し、08年審査員満場一致でマイスター試験に合格。同年、ベルギー、ブルージュ国際古楽コンクール、バロック・ヴァイオリン部門第3位。ソリストとして活動するほか、2011年よりコンチェルト・ケルンのコンサートマスターとなり、バロックのレパートリーをはじめとした多彩なプログラムで世界各国で演奏活動を行っている。さらに近年はフライブルク・バロック・オーケストラのコンサートミストレスとしても活躍。CDはドイツ・グラモフォンでジュリアーノ・カルミニョーラ、パッサカイユ・レーベルでロレンツォ・ギエルミらと共演。2017年よりザルツブルグ・モーツァルテウム音楽大学バロック・ヴァイオリン科の教授に就任。ケルン在住。


柴田俊幸
Toshiyuki Shibata, flute/flauto traverso

© Hiroshi Noguchi

フルート、フラウト・トラヴェルソ奏者。大阪大学外国語学部中退。ニューヨーク州立大学卒業。アントワープ王立音楽院修士課程、ゲント王立音楽院上級修士課程を修了。ブリュッセル・フィルハーモニック、ベルギー室内管弦楽団などで研鑽を積んだ後、古楽の世界に転身。ラ・プティット・バンド、イル・フォンダメント、ヴォクス・ルミニスなど古楽器アンサンブルに参加し欧州各地で演奏。2019年にはB’Rockオーケストラのソリストとして日本ツアーを行った。ユトレヒト古楽祭、バッハ・アカデミー・ブルージュ音楽祭などにソリストとして参加。アントワープ王立音楽院音楽図書館、フランダース音楽研究所にて研究員として勤務した。たかまつ国際古楽祭芸術監督。 『音楽の友』『パイパーズ』『THE FLUTE』Webマガジン『ONTOMO』などに寄稿。
Twitter / @ToshiShibataBE
Instagram / @musiqu3fl711
https://www.toshiyuki-shibata.com