海野幹雄(チェロ)

生誕180年のグリーグのチェロ曲を中心に構成

(c)Shiozawa Hideki

 2008年から継続してリサイタルを積み上げてきているチェリストの海野幹雄が、今年もピアノの海野春絵とともにリサイタルを開催する。毎回プログラミングが興味深いが、今回はグリーグを中心に「周年の作曲家」を取り上げる。

 「とにかく弾きたいと思う作品が多くて毎年迷うのですが、グリーグのチェロ・ソナタは以前から大好きな作品で、このシリーズでいつか取り上げようと思っていました。たまたま2023年がグリーグ生誕180年にあたるので、周年を迎える作曲家を集めてみたらどうか、と思い付いてプログラミングしました」

 グリーグのチェロ・ソナタ(1883年作曲)はこれまでにも何度か演奏してきた作品だ。

 「グリーグの中にある愛国心というか、故郷を想う気持ちが強く感じられる作品ですね。北欧の風土、例えば白夜もあれば、陽のほとんど出ない季節もある、そういう風土に生きた人の感情がとてもよく表現されている作品です。一緒に演奏する間奏曲は“EG115”という分類がされていますが、これは作品番号を持たない曲に付けられた番号で、出版されたのは作曲家の死後かもしれません。たまたまチェロ・ソナタの楽譜と一緒になっていて、数少ないグリーグのチェロ曲として演奏したいと思いました」

 そのグリーグの間に挟まれているのが20世紀イギリスを代表するブリテン(生誕110年)、やはり20世紀ハンガリーを代表するリゲティ(生誕100年)というふたりの作品だ。

 「ブリテンは無伴奏チェロ組曲を継続して取り上げてきましたが、今回はピアノとチェロのためのソナタを演奏します。開放弦、ピッツィカート、重音奏法、サルタンド(弓を弾ませる奏法)等、チェロの特色を存分に取り入れた作品で、ブリテンの作曲家としての力量を感じさせる作品だと思います。
 またリゲティというと、難解な現代音楽を書いた人というイメージでみんな構えてしまうかもしれませんが、この無伴奏チェロ・ソナタは比較的初期の作品。2つの楽章から構成されていますが、その最初の楽章は秘かに恋をしていた女性チェリストのために書いた作品が元になっていて、後にもうひとつの楽章を加えて完成させた曲です。リゲティ作品としてはとても聴きやすいので、楽しんでいただけるはずです」

 いずれもヨーロッパ音楽の主流とも言えるドイツ、フランスとは違う風土から登場してきた作曲家たちの作品は、もうひとつのヨーロッパの姿を教えてくれるだろう。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2023年5月号より)

海野幹雄チェロ・リサイタル2023【配信あり】
2023.6/4(日)14:00 Hakuju Hall
問:新演コンサート03-6384-2498 
http://www.shin-en.jp