響ホール リサイタルシリーズ
ダニエル・オッテンザマー クラリネット・トリオ・アンソロジー

世界最高峰の3人が響ホールで日本デビュー

(c)Andrej Grilc

 2023年度に開館30周年を迎えた北九州市立響ホールの7月のリサイタルシリーズに、ウィーン・フィル首席クラリネット奏者のダニエル・オッテンザマーが登場。彼が近年集中的に取り組んでいるクラリネット・トリオ(クラリネット・チェロ・ピアノ)での出演で、その真髄が体験できる。

 ダニエル・オッテンザマーは、ウィーン・フィルの主力として深く端整な美音を聴かせる一方、ウィーンとベルリンのトップ奏者たちがノンジャンルの音楽でライブ感を追求する「フィルハーモニクス」の中心的存在として、喜びあふれるプレイも各地で披露している。その彼が「フィルハーモニクス」のメンバーと共に、クラリネット・トリオの世界を硬派に探究するプロジェクト「クラリネット・トリオ・アンソロジー」を立ち上げた。チェロはベルリン・フィルのシュテファン・コンツ、ピアノはウィーン国立音楽大学教授のクリストフ・トラクスラー。3人は幼馴染でもあり、あらゆる音楽を最高レベルで実現できる世界的奏者たちでもある。今回の響ホール公演がトリオとしての日本デビュー公演になるとのことで、いち早くその実力を体験できる好機ともなる。

 演目がまた硬派そのもの。クラシックのクラリネット・トリオ作品の幅広さを効率よく体験できる、前後半3作ずつのプログラム。まず、「街の歌」の愛称で親しまれるベートーヴェンの作品11。ヴァイオリンの入るピアノ・トリオとしてもよく演奏されるが、クラリネット・トリオがオリジナル編成の名曲だ。続いてモーツァルトのメロディを基にしたペルト「モーツァルト・アダージョ」と、ブルッフの美しい「8つの小品 op.83」より3曲を。それぞれ原曲は違う編成だが(ペルトはヴァイオリン・チェロ・ピアノ、ブルッフはクラリネット・ヴィオラ・ピアノ)、新たな魅力を浮き彫りにしてくれるだろう。

 後半はさらに刺激的なプログラム。まず、シェーンベルク「断章」とツェムリンスキーの作品3。ツェムリンスキーの作品に刺激を受けた、弟子のシェーンベルクによるわずか30秒ほどの「断章」。その影響を与えたツェムリンスキーのトリオは、30分ほどのロマンティックな名品。並べて演奏されるのは意義深い。最後はニーノ・ロータの作品。映画音楽で知られるロータだが、新古典主義的な作風のクラシック作曲家としても演奏機会が増えており、本作も端整な構築のなかの抒情とユーモアが楽しい佳品。

 この6作品をまとめて味わえる、それも世界最高峰の3人の演奏で聴ける、最高のチャンス。クラリネット好き、室内楽愛好家は絶対に聴き逃がせない。

文:林昌英

響ホール リサイタルシリーズ
ダニエル・オッテンザマー クラリネット・トリオ・アンソロジー
2023.7/1(土)15:30 北九州市立響ホール

●出演
ダニエル・オッテンザマー(クラリネット)
シュテファン・コンツ(チェロ)
クリストフ・トラクスラー(ピアノ)
●曲目
ベートーヴェン:三重奏曲第4番 変ロ長調「街の歌」 op.11
ペルト:モーツァルト・アダージョ
ブルッフ:8つの小品 op.83より
     No.2 Allegro con moto
     No.3 Andante con moto
     No.7 Allegro vivace, ma non troppo
シェーンベルク:クラリネット三重奏曲 ニ短調「断章」
ツェムリンスキー:クラリネット三重奏曲 ニ短調 op.3
ロータ:クラリネット三重奏曲
●料金
一般:4,000円(前売)
25歳以下:2,000円(前売/入場時要証明)
*未就学児入場不可
*当日各500円増

北九州市立 響ホール
https://www.hibiki-hall.jp/