アンナ・フェドロヴァ(ピアノ)

祖国への想いを胸に、大好きなロシア作品を奏でる

(c)Marco Borggreve

 1990年生まれのウクライナ人ピアニスト、アンナ・フェドロヴァが5月6日、すみだトリフォニーホール主催の演奏会で本名徹次指揮、新日本フィルハーモニー交響楽団と共演、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」(ピアノ・ソロ)とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を弾く。3年ぶりの来日に先立つ、アムステルダムの自宅と東京を結んだリモート・インタビューの中で、フェドロヴァは「ロシアのウクライナ侵攻後、母国支援のチャリティコンサートに数多く出演してきましたが、『ロシア音楽を演奏するな』と言われるたび、心が痛みます。戦争は国と国の間の話であり、人間性や音楽とは何の関係もありません。ラフマニノフも革命で祖国を追われ、アメリカで生涯を終えた点では『ロシアに傷つけられた』存在なのです」と、現在の心境を語った。

 2023年が生誕150年、没後80年に当たるラフマニノフはキャリア初期から最も得意とする作曲家であり、「初来日した時もピアノ協奏曲第2番を弾きました」と振り返る。

 「どの作品も大きな感情の流れと力があり、幸福や悲哀、ノスタルジー、飛翔感、ダイナミズムのあらゆる可能性を秘めています。とりわけピアノ協奏曲第2番は交響曲第1番の初演失敗で精神的に行き詰まり、心理療法まで受けて立ち直った瞬間の“再生の音楽”です。ありったけの愛、幸せの感情が織り込まれているのにバランスも完璧で、私の最も好きなラフマニノフ作品であり続けてきました」

 昨年11月には「チャンネル・クラシックス」レーベルでモデスタス・ピトレナス指揮ザンクト・ガレン交響楽団とラフマニノフの「ピアノと管弦楽のための作品全集(協奏曲第1〜4番とパガニーニの主題による狂詩曲)」の録音を終え、この春「第3番」をリリースする予定。

 「展覧会の絵」も「大好きなソロ作品」だという。「私が5歳の頃、父(同じくピアニストのボリス・フェドロフ)が弾くのを聴き、色彩やキャラクターに魅せられたのです。『卵の殻をつけた雛の踊り』『鶏の足の上に建つ小屋 − バーバ・ヤガー』の2曲が特に、お気に入りでした」。ウクライナ侵攻以降、最終(第10曲)の題名を「キエフの大きな門」と記すか「キーウの大きな門」と改めるか遠く離れた日本でも問題になったことを伝えると、「そもそも、バーバ・ヤガーの『黒魔術』の暗闇を明るみへと反転させる音楽です。今こそ私は大きなエモーションをこめ、『キーウ』の明るい世界を描きたいと思います」と、フェドロヴァは返した。「代々の“歌う遺伝子”に加え、幼少期からの優れた教育システムがあり、ウクライナの音楽土壌は極めて豊かです」。
取材・文:池田卓夫
(ぶらあぼ2023年4月号より)

アンナ・フェドロヴァ meets 新日本フィルハーモニー交響楽団
2023.5/6(土)15:00 すみだトリフォニーホール
問:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212 
https://www.triphony.com