「ホワイトハンドコーラスNIPPON Freude! よろこびの歌」完成発表記者会見

すべての子どもたちが心の底からよろこびを唱和できる音楽のちから!

取材・文:香原斗志

子どもたちの大きな希望と勇気

 会見のなかで司会者が、コンサートの観客たちから「感動して動けなかった」「第九が別の次元に到達したように感じた」といった興奮を交えた声が数多く寄せられたと語っていたが、ダイジェスト映像を見終えた私自身の感想も同様だった。一般財団法人 さわかみ財団と一般社団法人 El Sistema Connect(エルシステマ・コネクト)が共同制作したドキュメンタリー映画「ホワイトハンドコーラスNIPPON Freude! よろこびの歌」である。

 ホワイトハンドコーラスNIPPONとは、合唱の「声隊」だけでなく、手話をとおして歌詞を歌う「サイン隊」も加わって活動しているインクルーシブな、すなわち包摂的な楽団で、視覚や聴覚に障がいをもつ子どもたちも、また障がいのない子どもたちと一緒に活動をともにし、音楽に親しんでいる。

©一般財団法人さわかみ財団/一般社団法人El Sistema Connect

 このドキュメンタリー映画は、そんな彼らが2021年12月21日、東京・池袋の東京芸術劇場で行われた世界的古楽オーケストラ、バッハ・コレギウム・ジャパンのクリスマス・コンサートに出演するまでの記録である。ベートーヴェンの第九交響曲の合唱を見事に歌い上げるまでの模様が、3カ月にわたる稽古をふくめて収められている。

 ところで、「より良い世の中づくり」を謳うさわかみ財団は、別にオペラのための財団をつくって若い音楽家への支援や、ジャパン・オペラ・フェスティヴァルと銘打った野外オペラ公演を重ねるなど貴重なメセナの担い手だ。ほかにも熊野古道の修繕活動や無人島への漂着物清掃活動から、関西独立リーグの応援等々のスポーツ支援まで、活動範囲はじつに広い。

 そんな財団の設立者である澤上篤人代表理事の胸に、ホワイトハンドコーラスNIPPONの活動が刺さらなかったはずがない。映画のエグゼクティブプロデューサーを務めた澤上氏は、3月15日に行われたドキュメンタリー映画の完成発表会見で、「このコーラスの活動は子どもたちに大きな希望と勇気を与えてくれている、ということを知ってもらいたい。(そして映画は)思ったよりもはるかに良い作品に仕上がっている」と、よろこびを込めて語っていた。

練習の様子 中央は指揮の鈴木優人さん
©一般財団法人さわかみ財団/一般社団法人El Sistema Connect

子どもたちの可能性と音楽の力

 事実、この映画のダイジェスト版をわずかに見ただけで、私は澤上氏と同じ感想をいだいた。そこに映し出された子どもたちは、障がいをハンデではなく個性ととらえている。そして、だれもが自分たちができることを最大限に実現するために、笑顔を輝かせながら真剣に、激しいまでの集中力を維持しながら緊張感をもって取り組んでいる。そこにうわべだけの姿勢は微塵もない。

 そして、第九の第4楽章の合唱の歌詞「Freude よろこび」が、これほど言葉そのものの意味を強く、ストレートに伝えるのを聴いたことがないように思う。そう言い切れるほど、子どもたちの表情も表現もよろこびに満ちあふれていた。こうして映像からポジティヴな圧力のように伝わってくる子どもたちの「大きな希望と勇気」に、胸を熱くしない人はいないのではないだろうか。

コロンえりかさん
©一般財団法人さわかみ財団/一般社団法人El Sistema Connect

 エルシステマ・コネクト代表であるソプラノ歌手のコロンえりかさんの言葉が、この映画に収められた子どもたちの可能性について、より具体的に伝えてくれる。

「夢を見るということは、練習が必要なことなんですね。私は子どもたちがみな、夢をもっていると思いました。親御さんたちは『うちの子はこれができないんです』とおっしゃるケースがほとんどですが、障がいをもっているお子さんは、就労支援施設に入れば必ず居場所があります。でも、(この映像で観られるような)こんなに豊かな心をもっている子どもたちを前にすると、彼らが日本でイノベーションを起こす可能性を感じます。そのためには大人の力が絶対に必要で、そのためにも、この子どもたちの姿を、できるだけ多くの人に見てもらわないといけないと思っています」

 監督を務めた池田圭佑氏が、補うように、

「一番思ったことは、障がいをもっている子どもたちが、障がい者あつかいされていないということでした。手を引っ張ってあげたり、ということが自然に行われています。障がいがひとつの個性としてあつかわれ、みな劣等感をもっていない。そこにこの活動のすばらしさを感じます」

 と加えた。それを受けて、コロンえりかさんがさらに続けて語る。

「世の中、支援する側と支援される側だけではないんですね。映画のなかにみさきちゃんという子が出てきますが、『私は聾者です』と言うのと同時に、『私は聾者であることを誇りに思っています』と主張します。まだ中学2年生の女の子です。子どもたちはほんとうに成長し、第九への出演をやり遂げたあと、自信に満ちあふれていました。自分をさらけ出して大きな拍手をもらって、子どもたちはまだまだ変わっていきます」

 子どもたちの可能性と、それを引きだし、彼らに自信と生きる力を与えてくれる音楽の力に、胸も心も熱くなった。

映画本編のワンシーン
©一般財団法人さわかみ財団/一般社団法人El Sistema Connect