伊藤順一(ピアノ)& 黒岩航紀(ピアノ)

作曲家チェルニーの才覚を一日で深掘り

 エチュードで有名なカール・チェルニーの、知られざる? 知る人ぞ知る? 名曲集の「前奏曲とフーガ op.400」。この録音に取り組んだアトリエ・アッシュ・アートサロン(主宰:上田泰史、秦はるひ)のメンバー。そのCD(アールアンフィニ)発売の経緯は本誌2022年12月号で秦にインタビューしたが、この春ついに発売記念コンサートが実現する。しかも前奏曲とフーガのみならず、オール・チェルニーのプログラムは多岐にわたった作品群で、改めてチェルニーの才覚に驚かされる。その舞台裏話を、サロンメンバーのピアニスト2人、伊藤順一と黒岩航紀に訊いた。

 「小学校1年生ぐらいから『チェルニー30番』を練習していて、この先まだ何冊もある練習曲集を、まるで漢字ドリルのようだと当時は感じていました。でも今になってみると、“正しく弾くこと”の要素のすべてが詰まっている実感があります。それは指の鍛練だけではなくて、構成感や和声感などすべて」(伊藤)。修行のように弾いていたけれど、いつしか技術が身についているチェルニー。

 「小学校の高学年からチェルニーを始めたので、意外と嫌いではなかったです。その当時からチェルニーの作風には惹かれる部分があって、あれだけの練習曲集を書いたからこそ、後年ショパンやモシュコフスキも練習曲集を書けたのではないでしょうか」(黒岩)。楽譜を深く読んでいくと、随所に見られるチェルニーの時代の先取り。

 「コンサートでは連弾曲の『感傷的なソナタ』を弾きますが、こんな洒落たタイトルを付けるところにもチェルニーのセンスを感じます。タイトルどおりのロマンチックな素敵な曲で、シューベルトやブラームスに通じる色合いもあり、今後は他のチェルニー作品も深めていきたいと思っています」(伊藤)

 出演者は、国際舞台でも活躍している音楽に熱い面々である。選曲構成に関して様々な意見が出たというのも頷ける。「1回のステージでは無理、皆さんにいろいろ聴いていただきたい」ということから昼と夜の2公演。ピアノ作品だけではなく、フルートやホルン、弦楽器も登場する文字通り『チェルニー祭り』の一日だ。

 「僕は連弾組なので、他の連弾曲のメンバーとの意見交換など触発の連続です。本番までにまた展開が見られる気がします」(伊藤)。「チェルニーはオペラのパラフレーズも上手かったし、フーガの中には合奏の要素もあります。チェルニーの意外な一面に皆さん驚かれるでしょうし、魅力満載のコンサートになると思います」(黒岩)。

 苦行のチェルニーではなく名作曲家のチェルニーを、深掘りできるまたとない機会である。
取材・文:上田弘子
(ぶらあぼ2023年3月号より)

アトリエ・アッシュ アートサロンメンバーによる「チェルニー祭り」 
前奏曲とフーガ 作品400 CD発売記念コンサート
2023.3/22(水)15:00 18:30 豊洲シビックセンターホール
問:アトリエ・アッシュ parisharu2006@gmail.com
https://atelier-h.art

CD『チェルニー:12の前奏曲とフーガ 作品400』
アールアンフィニ
MECO-1076 
¥3300(税込)