フィリップ・ジャルスキー 《オルフェーオの物語》

世界を魅了するカウンターテナーが9年ぶりの来日!

左:フィリップ・ジャルスキー 右:エメーケ・バラート (c)Edouard Brane

 フランスの名カウンターテナー、フィリップ・ジャルスキーが待望の再来日を果たす。前回、東京オペラシティ コンサートホールを熱狂させて以来、なんと9年ぶりという(2020年3月に予定されていた来日はコロナ禍のために実現しなかった)。しかも今回は彼自身の楽団、アンサンブル・アルタセルセを率いての公演である点も期待が高まる。

 2014年の時はまだ青年の面影を残し、ピュアで伸びやかな歌声をもつ凛々しいカウンターテナーという印象が強かったが、今や名実ともにバロック界のスターの地位に上り詰め、19年にはザルツブルク音楽祭の《アルチーナ》でバルトリと共演、輝かしい歌唱で観客を虜にした。現在では歌手としてのみならず、教育者として(17年にはパリ郊外に自らの音楽アカデミーを設立)、指揮者として(22年にはパリ・シャンゼリゼ劇場で初めてのオペラ公演を指揮)活動の幅を拡げている。

 日本でも彼の歌うオペラを観たいところだが、その意味で今回の「オルフェーオの物語」はいくらかその願望をかなえてくれる舞台と言えるのではないだろうか。

 周知のとおり、オルフェーオはギリシャ神話に登場する秀でた音楽家・詩人であり、古今の作曲家を魅了し続けてきた題材。ジャルスキーは、17世紀に上演された3作の《オルフェーオ》—— クラウディオ・モンテヴェルディ(マントヴァ、1607年)、ルイージ・ロッシ(パリ、1647年)、そしてアントニオ・サルトーリオ(ヴェネツィア、1672年)のオペラ —— に焦点を当て、その中から珠玉のアリアや重唱、器楽曲などを選り抜いて再構成し、2人の歌手とアンサンブルで演じるオペラ風の作品に仕立てた。とりわけロッシとサルトーリオのオルフェーオ役はソプラノ・カストラートのために書かれており、高音の美しいジャルスキーにぴったりだ。いずれもヨーロッパでもめったに聴けない隠れた名作であり(サルトーリオの《オルフェーオ》は今年6月にモンペリエ歌劇場でジャルスキーの指揮で舞台上演される)、バロック・ファン垂涎のプログラムである。

 エウリディーチェ役を演じるのは、ハンガリー人リリック・ソプラノ、エメーケ・バラート。ジャルスキーとは本プロジェクトをはじめ、数々の舞台やCDで共演しており、最近では彼の指揮によるヘンデルのアリアのアルバムもリリース。ブダペストのリスト音楽院で学んだ逸材で、インスブルックのバロック・オペラ声楽コンクールでの優勝を機に古楽の分野で頭角を現し、ヘンデルやモンテヴェルディ、カヴァッリらのオペラの主役を多く歌ってきた。またモーツァルトや、ドビュッシーなどフランス近現代ものも得意とする。ジャルスキーが「悲劇的オペラにおけるヒロインの素晴らしい歌い手」だと評しているように、そこはかとなく陰影を感じさせる気品のある美声がまさにエウリディーチェ役にふさわしい。

 ジャルスキー、バラート、アンサンブル・アルタセルセという理想的な組み合わせを得て、新しいオルフェーオ伝説が東京で花開く。
文:後藤菜穂子
(ぶらあぼ2023年2月号より)

2023.3/1(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp