「ウクライナの芸術は生きている」
〜ウクライナ国立歌劇場が来日、全国13都市で公演

左より:ミコラ・ジャジューラ、寺田宜弘、オリガ・ゴリッツァ、ニキータ・スハルコフ

 創立155年の歴史を誇るウクライナ国立歌劇場の来日ツアーが12月17日、ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)『ドン・キホーテ』で開幕した。初日を前に横浜市内で行われた記者会見では、劇場の現状や、侵略で不安が続くなかでの来日公演にかける想いが語られた。登壇者は、首席指揮・音楽監督ミコラ・ジャジューラ、12月6日付けでバレエ芸術監督に就任した寺田宜弘、プリンシパルのオリガ・ゴリッツァとニキータ・スハルコフ。

 今回ツアーでは オペラ《カルメン》、バレエ『ドン・キホーテ』、オーケストラ「第九」、新春オペラ・バレエ・ガラが上演され、全国13都市で全26公演を実施される。キーウからはオーケストラメンバー、合唱、ダンサーら合計181名が来日。今年7月、8月に30名のダンサーによる『キエフ・バレエ・ガラ2022』(主催:光藍社)を行ったが、劇場をあげて国外で行うツアーはコロナ禍以来はじめてとなる。なお、本公演より従来の「キエフ・オペラ」「キエフ・バレエ」という呼称を改め、「ウクライナ国立歌劇場」「ウクライナ国立バレエ」と表記される。

12月16日に行なわれた『ドン・キホーテ』ゲネプロよりダンサー、オーケストラメンバーらが集合写真。
写真提供:光藍社

 ウクライナにおいて国立歌劇場の芸術監督に日本人として初めて就任した寺田。11歳の時にウクライナに国費留学してから35年が経つ。侵攻が始まってからは、ウクライナのダンサーや子どもたちに対してヨーロッパの国立オペラ劇場やバレエ学校への入学・留学のサポートを行ってきた。就任にあたっては、劇場総裁から「ウクライナの新しい舞台芸術、未来を創ってほしい」と託された。

「ウクライナ国立歌劇場は、ウクライナで最大の劇場であり、この国を代表する素晴らしい芸術劇場です。そのバレエ団の芸術監督になった以上、日本人として、芸術の力を借りて、よりいっそうの国際交流、素晴らしい芸術、時代を作り上げていくのが私の役目です。そしてチャイコフスキーの曲が使えないなか、2人の振付家、ジョン・ノイマイヤーとハンス・ファン・マーネンによる新たな2作品(2人とも無償で協力)を上演します。ハンブルク・バレエ団やオランダ国立バレエのウクライナ人の団員が危険を顧みずキーウ入りして指導にあたってくれます。世界中の芸術家の力をお借りして、素晴らしいバレエ団に変えていきたい。
 劇場に残っている95名のダンサーは、自分の国、自分の文化、自分の芸術を心から愛している団員たちです。今回、日本公演でパフォーマンスするすべてのダンサーたちは、ここ日本から世界中に住んでいるウクライナの人たちに、ウクライナの芸術は生きていることを証明できると思っています」

寺田宜弘
ミコラ・ジャジューラ

 ウクライナ国立歌劇場は、侵攻後に一度閉鎖したが5月に公演を再開。サイレンが鳴るたびに中断を余儀なくされるが、現在はオペラとバレエ公演それぞれ週2回ずつ公演を行っており、毎回満席だとういう。観客の定員は400名、これは緊急時に地下シェルターに避難できる人数だ。ジャジューラ音楽監督は劇場の現状を次のように語った。

「私たちはどんな状況でもやるべきことを行っています。オペラ《ファウスト》《椿姫》、バレエ『雪の女王』のプレミエも上演しました。私たちの仕事がウクライナの人々にとってとても大切で、必要とされていると実感しています。私たちはポジティブである。それが今回の来日公演の特徴のひとつです。
 いま劇場には、ダンサーや合唱、オーケストラを合わせて500名ほどのアーティストがいます。練習するのは決して楽なことではなく、空襲サイレンが鳴ると地下やシェルターに避難しなければならない日々です。しかしそんな状況に屈することなく、私たちにとって劇場が最前線だと思って戦っています。そしてみんなのそういった前向きな気持ちがとても大切だと考えます。
 私は外国によく行くのですが、救急車やパトカーの音を聞くと身体が反応してしまいます。そのような状況でいちばん心を苦しめているのは、戦争がまだ続いているということです。私たち芸術家が舞台に上がるというのは、前線で戦っているのと同じです」

 プリンシパルのオリガ・ゴリッツァ、ニキータ・スハルコフも本公演にかける想いは強い。
「何があっても、どんな大変な状況でも仕事を続けられることが大切だと思っています。日本公演は私たちにとって、とても大事な公演です。日本の観客のみなさんがウクライナ国立歌劇場を大好きでいてくださる。夏の公演ではみなさんにあたたかく受け入れていただきました。僕らは1ヵ月前からリハーサルを始めて、とても良い準備ができたと思っています。ぜひみなさんに見ていただきたいです」(スハルコフ)
「『ドン・キホーテ』は明るくて前向きな演目です。全3幕それぞれに特徴があるので、違う雰囲気を味わうことができます。キトリ役、『ドン・キホーテ』の舞台を通じて、日本のみなさんにウクライナ人の強さ、負けないという気持ちを伝えたい。そしてウクライナが必ず勝つことを強く願っています」(ゴリッツァ)

ニキータ・スハルコフ
オリガ・ゴリッツァ
12月16日に行なわれた『ドン・キホーテ』ゲネプロより。
提供:光藍社

 なお、今回のツアーでは、本公演の協賛会社CHINTAIのTwitterアカウントの寄付募集投稿を1リツイートするごとにウクライナ国立歌劇場へ100円が寄付される「みんなで応援プラン」と、ウクライナ国立歌劇場へ希望金額を寄付する「個人で応援プラン」という2種類の寄付活動が実施されている。どちらも主催者・光藍社を通じてウクライナ国立歌劇場に寄付される。
 
 厳しい状況下においてもウクライナの芸術を守り続けている彼らの日本での特別な公演、その勇姿と熱き想いを見届けたい。

Information

ウクライナ国立歌劇場 来日公演

●ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)『ドン・キホーテ』
2022.12.17(土)14:00 神奈川県民ホール
12/18(日)12:00 東京国際フォーラム ホールA
12/19(月)18:30 昌賢学園まえばしホール(前橋市民文化会館)
12/20(火)18:30 市川市文化会館
12/22(木)18:30 めぐろパーシモンホール
12/23(金)18:30 いわきアリオス
12/24(土)15:00 あきた芸術劇場ミルハス
12/25(日)16:00 やまぎん県民ホール
12/26(月)17:00、12/27(火)14:00 東京文化会館
12/28(水)15:00 アクトシティ浜松
12/30(金)16:00 ウェスタ川越


●ウクライナ国立歌劇場管弦楽団「第九」
2022.12/28(水)14:00 横浜みなとみらいホール
12/29(木)13:00、12/30(金)14:00 東京オペラシティ コンサートホール

2023.1/15(日)16:00 高崎芸術劇場

●ウクライナ国立歌劇場『新春オペラ・バレエ・ガラ』
2023.1/3(火)12:30 16:30 東京国際フォーラム ホールC


●ウクライナ国立歌劇場《カルメン》
2023.1/6(金)13:00、1/7(土)13:30 東京文化会館
1/8(日)15:00 大阪/フェスティバルホール
1/9(月・祝)15:00 愛知県芸術劇場
1/10(火)18:30 和歌山県民文化会館
1/13(金)18:30 長野市芸術館
1/14(土)15:00 高崎芸術劇場


※公演の詳細は下記ウェブサイトよりご確認ください。
https://www.koransha.com