歌唱、演技とともに、オペラやクラシック音楽初心者にもわかりやすい語り口の解説で定評があり人気の、二期会テノール高田正人が、ぶらあぼONLINEで連載開始。
東京二期会のオペラ公演にあなたを誘います!
Vol.1 オペレッタも直訳するなら、小さなオペラ、となるのだろうけど、ニュアンスを取れば「オペラの妹」くらいの感じだろうか。
イタリアではオペラの開演時間が日本より遅い。
平日は夜の8時から、という歌劇場が多く、人々は仕事から帰ると少し早めに夕食をとり、少しお洒落をして夜の街へと繰り出す。
スカラ座の初日などは別だが、一般的な街のオペラハウスはそこまで気負ったドレスというわけでもなく、普段からお洒落なイタリア人たちが少しフォーマルになる感じだろうか。
夜の8時からオペラが始まると、終わりは0時近くなる。
東京なら終電が心配になるところだが、イタリアではミラノやローマなどの大きな都市でない限り、電車を使ってオペラを観に行くことは少ない。
よほど小さな街にも歌劇場があるので、多くの人にとってそこは徒歩圏だし、少し離れている人なら日本の地方都市と同じように自分の車でやって来る。
歌劇場はたいてい街の中心部にある。人々が集まる広場や教会の程近く。
人々が日常を過ごす空間の中に劇場があり、人々の生活の中にオペラが根付いている感じだ。
国を移して、アメリカはニューヨークのメトロポリタン歌劇場などに行くとまた少し趣が違ってくる。こちらではオペラは芸術であるとともに、極上のエンターテインメントとしての非日常をオペラシーンが作り出す。プレミエの日などはファッションショーのような鮮やかなドレスやスーツに身を包んだ人々が高級車やタクシーから降り立つ。
ここでは自分の輝きを人に見せること自体も楽しみの一つになるし、少し背伸びした若者たちのエッジの効いたデートにも使われる。開演5分前になるとスワロフスキーでできた21個のシャンデリアがスーッと上方に上がっていき、否が応でも高揚感と幸福感が押し寄せてくる。
長い歴史の中で、それぞれの国がそれぞれにオペラの楽しみ方を育ててきた。
では日本ではどうかといえば、その昔は大正時代に浅草オペラが一世を風靡し、その後、時を経て1934年(昭和9年)に藤原歌劇団が、そして今年創立70周年を迎えた東京二期会が1952年(昭和27年)に誕生。1997年(平成9年)にはついに新国立歌劇場が設立され、日本にもやっと国営のオペラ劇場が生まれ現在に至る。欧米のようにはいかないまでも、日本にもオペラという舞台文化が少しずつ浸透してきた。
海外ではオペラ劇場が各所にあるが、日本ではなかなかそういう訳にはいかず、東京二期会も自分たちの劇場を持っている訳ではない。公演ごとに東京文化会館、日生劇場、Bunkamura オーチャードホール、新国立劇場などを渡り歩くわけだが、それぞれの劇場で演目に特徴があって面白い。
例えば東京文化会館や新国立劇場という大劇場では、《蝶々夫人》《椿姫》などの王道ものや《フィガロの結婚》《魔笛》といったモーツァルト作品を上演することが多い。日生劇場ではその舞台と客席との親密な距離感を生かしてセリフなどもよく通るオペレッタを、オーチャードホールでは近年セミ・ステージ形式(オーケストラを舞台の上にあげ、簡単な演出をつけてオペラを見せる)で、あまり日本では上演されないような珍しい演目を取り上げている。
今年9月に新国立劇場での《蝶々夫人》を終えたばかりの二期会の次の演目は、11月の日生劇場でのオペレッタ《天国と地獄》と、有名な演目が続く。
オペレッタは19世紀半ばにフランスのパリで生まれた。
当時のフランスでは悲劇的な内容の壮大なグランドオペラや、イタリアからきた《椿姫》や《アイーダ》などのイタリアオペラが中心だったが、それはそれなりに敷居の高いものだった。
革命が起こる前はもちろんだけど、革命が終わって歴史の主導権が市民に移ってからも、やはりオペラは上流階級(貴族やブルジョワジー)が楽しむものだった。
そこに風穴を開けたのがオペレッタ。
オペレッタというのは「オペラ」に縮小語尾の「エッタ」が付いて、かわいい感じになった呼び名である。色々なものにこの縮小語尾は付くのだが、例えば《フィガロの結婚》のスザンナ(Susanna)がスザンネッタ(Susannnetta)になれば「スザンナちゃん」、フィガロ(Figaro)がフィガレット(Figaretto)になれば「かわいいフィガロ」というような感じ。オペレッタも直訳するなら、小さなオペラ、となるのだろうけど、ニュアンスを取れば「オペラの妹」くらいの感じだろうか。歌だけでなくセリフが入り、踊り子たちによる楽しく派手なダンスがあり、フランス生まれらしくその時々の政治や世相への鋭い風刺やウィットの効いたパロディが入る。悲劇的なオペラと違って、その終わりはハッピーエンド。人々は深淵なグランドオペラと違って、気軽に劇場の門をくぐり、楽しく軽い足取りで家に帰ることができた。
その最初の作品と言ってもいいのが、オッフェンバックの《天国と地獄》。日本では運動会の音楽で有名だ。内容は感動的なギリシャ神話を軽薄なダメ男(ダメな神様)たちのパロディにしちゃったというもの。これがパリで大ヒットして228回におよぶロングランとなった。
この流行がウィーンにも飛び火し、ウィーンで新しいオペレッタが次々に生まれ、それはアメリカにまで飛び火して「ミュージカル」を生むことになる。
Information
二期会創立70周年記念公演
東京二期会オペラ劇場 NISSAY OPERA 2022提携
《天国と地獄》
2022.11/23(水・祝)17:00、11/24(木)14:00、11/26(土)14:00、11/27(日)14:00
日生劇場
演出:鵜山仁
指揮:原田慶太楼
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
出演
プルート:渡邉公威(11/23, 11/26) 高田正人(11/24, 11/27)
ジュピター:又吉秀樹(11/23, 11/26) 杉浦隆大(11/24, 11/27)
オルフェ:市川浩平(11/23, 11/26) 下村将太(11/24, 11/27)
ジョン・スティクス:髙梨英次郎(11/23, 11/26) 相山潤平(11/24, 11/27)
マーキュリー:中島康晴(11/23, 11/26) 荒木俊雅(11/24, 11/27)
バッカス:鹿野由之(11/23, 11/26) 倉本晋児(11/24, 11/27)
マルス:菅谷公博(11/23, 11/26) 的場正剛(11/24, 11/27)
ユリディス:湯浅桃子(11/23, 11/26) 冨平安希子(11/24, 11/27)
ダイアナ:上田純子(11/23, 11/26) 川田桜香(11/24, 11/27)
世論:竹本節子(11/23, 11/26) 手嶋眞佐子(11/24, 11/27)
ヴィーナス:鷲尾麻衣(11/23, 11/26) 清野友香莉(11/24, 11/27)
キューピット:吉田桃子(11/23, 11/26) 松原典子(11/24, 11/27)
ジュノー:増田のり子(11/23, 11/26) 柴田智子(11/24, 11/27)
ミネルヴァ:北原瑠美(11/23, 11/26) 中野亜維里(11/24, 11/27)
合唱:二期会合唱団
問:二期会チケットセンター03-3796-1831
http://www.nikikai.net
http://www.nikikai.net/lineup/orphee2022/