「近未来の巨匠」を自分の耳で発見しよう!
〜ピティナ・ピアノコンペティション、特級ファイナルの開催迫る〜

文:池田卓夫(音楽ジャーナリスト)

 一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(PTNA=略称ピティナ)が主催する「第46回ピティナ・ピアノコンペティション」が佳境に入り、二次予選進出者25人が発表された。今後の日程は、2022年7月26日と27日に25人で特級二次予選(東大和市民会館ハミングホール)、29日に10人で特級三次予選(同)、8月14日の午前と午後に7人で特級セミファイナル(第一生命ホール)と絞り込まれ、17日の特級ファイナル(サントリーホール)では、ファイナリスト4人が飯森範親指揮東京フィルハーモニー交響楽団とピアノ協奏曲を演奏、今年の特級グランプリが決まるという流れだ。

特級ファイナルの舞台はサントリーホール。昨年のグランプリ野村友里愛は最年少15歳(当時)。

 「ピティナ特級」は毎年、全国から延べ約4万人が参加する世界でも最大級のピアノコンクール、「ピティナ・ピアノコンペティション」の全グレード中、最高峰に位置する。

 福田成康ピティナ専務理事は第42回コンペティションに先立つ「ぶらあぼ」2018年7月号のインタビューで、特級ファイナルを「(初めて)クラシック音楽の殿堂、サントリーホールで開催できるのは無上の喜び」と語った。さらに「格別の音響で、コンクールという最高におもしろいクラシックのステージを、ぜひ多くの方に聴いていただきたい」と言い、聴く側の醍醐味を次のように説明している。
「コンクールでは、誰もが『違い』を楽しむことができます。最終ラウンドである特級ファイナルに残った4名が、協奏曲をオーケストラと演奏します。人間の脳は、7つの物事まで容易に記憶し比較することができると聞いたことがあります。4名であれば演奏の特徴や選んだ曲について『違い』を認識しやすい。比較対照はコンクールを聴く楽しさの本質と言えるでしょう」
*(取材・文=飯田有抄)

 今回もサントリーホールのファイナルと第一生命ホールのセミファイナル(ソロ)を一般発売の公演とするほか、二次予選以降すべてをライブで配信する。YouTubeの「ピティナ・ピアノチャンネル」では、7月17日午前10時から「二次選出者紹介」、25日午後7時半から「2022年特級開幕前夜祭」、8月7日午前10時から「セミファイナリスト紹介」の特別番組3本の公開を予定する。7月26日から8月17日の間、25人の二次予選進出者を対象に、1日1票のオンライン投票で「サポーター賞」、17日の特級ファイナルでは会場投票での「聴衆賞」を設け、審査員に限らず、一般の評価も広く受け付けているのもピティナ・ピアノコンペティションのユニークな特色だ。

表彰式ではプレゼンターも注目の的。
昨年は、2018年グランプリの角野隼斗がプレゼンターの一人として登場し、会場を沸かせた。

 改めて、過去の特級グランプリ受賞者リストを見てみよう。
2002年度=田村響(2007年ロン゠ティボー国際コンクール第1位)、2003年度=関本昌平(2005年ショパン国際ピアノコンクール第4位)、2004年度=後藤正孝(2011年フランツ・リスト国際ピアノコンクール=オランダ=第1位)、2011年度=阪田知樹(2016年フランツ・リスト国際コンクール=ハンガリー=第1位)、2018年度=角野隼斗(2021年ショパン国際ピアノコンクール・三次予選進出)、2019年度=亀井聖矢(2022年マリア・カナルス国際コンクール第3位)ら錚々たる顔ぶれが並ぶ。多くがピティナ特級グランプリを境に、世界の大きな舞台へと飛び立ってきた。

2021年の銀賞は、その後ショパン・コンクールでも大活躍だった進藤実優。

 筆者は、直近では2020年8月21日の第44回特級ファイナルをサントリーホールで聴いた。ファイナル進出者は、谷昂登(2003– )、山縣美季(2002- )、尾城杏奈(1997- )、森本隼太(2004- )の4人で、ショパンのピアノ協奏曲第2番を弾いた山縣以外の3人は、そろってラフマニノフのピアノ協奏曲第3番(管弦楽は岩村力指揮の東京交響楽団)。谷はロシア音楽への深い傾倒、山縣は装飾音やテンポルバートの吟味、尾城はラフマニノフの都会的で洗練された側面の再現、森本は少年らしくスポーティーな運びの中に見え隠れする原石の輝き…と、すでに大きく絞り込まれてきたコンテスタントならではの聴きどころ、才能の輝きが随所にあり、普通のコンサートとして接しても、かなり高い水準の演奏だった。

 結果は尾城がグランプリ(第1位)、森本が銀賞(第2位)、谷が銅賞(第3位)、山縣が第4位。その後、イタリアへ留学した森本が一時帰国中の今年5月7日、浜離宮朝日ホールで行ったリサイタルを聴く機会があった。既に最初のベートーヴェンで、和声やフレージングなど、ヨーロッパの古典音楽の構造に対する視点が急速に芽生えつつある実態をはっきりと示した。フォーレ、ショパンとも、中間部のゆったり歌わせる部分で絶妙なペダリングが繊細かつ多彩な音色の妙を現出させる。後半のシューマンでは音の暴れも消え、より内面の深い部分に目を向けながらじっくり掘り下げる姿勢で一貫した。ポテンシャルの急激な開花に、目(耳?)を見張った。

 第46回(2022年)は高校2年生から国内音楽大学の学部、あるいは大学院に在学中と修了、ヨーロッパ留学中まで幅広い年齢、多彩なプロフィールの25人が二次予選進出者に選ばれた。ここからは皆さんも審査会場の客席、ライブ配信のいずれかで“審査”をリアルタイムで体験、「近未来の巨匠」発見の一端を担うことができる。

写真提供:全日本ピアノ指導者協会

♪ピティナ・ピアノコンペティション 二次予選進出者(五十音順)
 生熊 茜:京都市立芸術大学 大学院修
 井上 珠里亜:東京藝術大学2年
 今井 梨緒:桐朋学園大学 大学院2年
 加古 彩子:大阪音楽大学4年
 笠井 萌:東京音楽大学 大学院修
 北村 明日人:チューリヒ芸術大学 大学院修/東京芸術大学 大学院在学中
 草間 紀和:東京藝術大学 大学院2年
 工藤 桃子: 東京音楽大学4年
 後藤 美優: 名古屋市立菊里高校3年
 神宮司 悠翔:東京藝術大学音楽学部附属音楽高校2年
 鈴木 愛美:東京音楽大学3年
 鈴木 美穂:愛知県立芸術大学 大学院修
 千葉 まりん:東京音楽大学 大学院1年
 鶴原 壮一郎:東京藝術大学2年
 平間 今日志郎:パーク大学国際音楽センター大学院
 福田 優花:東京藝術大学 大学院修/エコールノルマル音楽院在学中
 藤澤 亜里紗:東京音楽大学 大学院修
 古内 里英:桐朋学園大学卒
 細川 萌絵:京都市立芸術大学 大学院2年
 松口 理子:東京藝術大学 大学院1年
 森永 冬香:東京藝術大学3年
 山田 ありあ:愛知県立芸術大学4年
 吉田 夢佳:桐朋学園大学 大学院2年
 吉原 佳奈:昭和音楽大学4年
 渡邊 さくら:東京芸術大学大学院在学中

特級二次予選演奏順

♪ 2022ピティナ・ピアノコンペティション特級 スケジュール

◯二次予選(25名)
7/26(火)11:00 東大和市民会館ハミングホール大ホール
7/27(水)10:30 東大和市民会館ハミングホール大ホール
チケット:当日券(全席自由)のみ(一般:1000円 ピティナ会員・学生:800円)

◯三次予選(10名)
7/29(金)13:30 東大和市民会館ハミングホール大ホール
チケット:当日券(全席自由)(一般:1000円 ピティナ会員・学生:800円)

◯セミファイナル(7名)
8/14(日)午前の部10:30/午後の部14:45 第一生命ホール
チケットぴあ イープラス 午前の部午後の部

◯ファイナル(4名)
8/17(水)16:30 サントリーホール大ホール
共演:飯森範親(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
サントリーホールチケットセンター(ファイナルのみ) 0570-55-0017
  チケットぴあ イープラス