取材・文:山田治生
第19回東京国際音楽コンクール〈指揮〉入賞デビューコンサートが7月5日に東京オペラシティ コンサートホールで開催された。昨年秋に行われた同コンクールで上位に入った若者たちがオペラシティに帰還。この日の演奏はNHK交響楽団。彼らにとってこれ以上の“ご褒美”はないであろう。
本来ならば、本選での第1位から第3位までの3人が振るはずであったが、第3位のバーティー・ベイジェントが新型コロナウイルス感染症に関わる入国制限のため来日できず、急遽、入選の米田覚士が代役を務めることになった。
まず、米田が登場。東京藝術大学指揮科出身の25歳。プロのオーケストラを指揮した経験はまだ少ない。この公演では、コンクール本選でも指揮したチャイコフスキーの幻想的序曲「ロメオとジュリエット」を取り上げた。N響相手であるが、前回よりも自信を持って指揮しているように見える。序奏からじっくりと描き、アレグロの主部に入っても勢いに任せたりはしない。愛のテーマである第2主題ではテンポの揺れも。どこを盛り上げ、どこを頂点とするかといった作品全体の設計がよく考えられ、それを見事に再現していた。ただ、音楽が少し停滞するように感じられたところもあった。
次に、第2位のサミー・ラシッドが、ワーグナーの楽劇《トリスタンとイゾルデ》から〈前奏曲〉と〈愛の死〉を指揮した。ラシッドは、フランス出身。チェロ奏者としてキャリアをスタートし、カルテット・アロドのメンバーとしてミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門で第1位を獲得している。2021年、指揮者に転向。ヴェルビエ音楽祭2022の指揮フェローに選ばれ、シャルル・デュトワなど世界的な名指揮者と共演。たしかに、昨年のコンクール時に比べて、バトン・テクニックが顕著に上達している。〈前奏曲〉から、粘り過ぎずにキッパリと表現。音楽が停滞せず、流れる。N響の弦楽器がしなやかな音色。〈愛の死〉では、様々な声部を際立たせ(特に第2ヴァイオリンやハープが印象的)、大きな呼吸で、美しい演奏を繰り広げた。
後半は、第1位のジョゼ・ソアーレスが登場し、シューマンの交響曲第1番「春」を指揮。ソアーレスは、ブラジル出身。サンパウロ大学で作曲を学んだ後、マリン・オルソップやパーヴォ・ヤルヴィらに師事。サンパウロ交響楽団の客演アシスタント・コンダクターも務めた。コンクール本選の、ストラヴィンスキー「ペトルーシュカ」での鮮やかな指揮が思い出される。今回は、シューマンで手堅い指揮を披露。第1楽章からキレがよい。第2楽章は流れがよく、第3楽章も重々しくならない。第4楽章は爽やか。
コンサート全体を通して、N響は若き指揮者たちへ協力的な演奏で応えた。
東京国際音楽コンクール〈指揮〉
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