第10回を迎えた調布国際音楽祭 2022の聴きどころ

角野隼斗、小林愛実ら話題のアーティストが集結!

 2013年にスタートして以来、自身も地元で育ったという音楽家・鈴木優人さんを中心に、常連のバッハ・コレギウム・ジャパンはもちろん、国内外の第一線のアーティストたちが数多く参加してきたフェスティバル。都心から少し離れた街ならではの温かな雰囲気と手づくり感が魅力のイベントとして、すっかり定着した感があります。今年も、調布の街が音楽であふれる9日間(6/18〜6/26)が、まもなくやってきます!
2021年のフェスティバル・オーケストラ © K. Miura

文:林昌英

 東京の多摩地域東部、調布市の中心地である京王線調布駅。新宿駅から特急ならわずか15分強で到着。バスも多くの路線が集中。大型商業施設、最先端の人気カフェから、地域に根差した個人商店まで、どんなニーズにも応えられるお店の数々。深大寺のような歴史的名所、複数の大学もある。都心とも郊外とも違う、独特の空気感がある街だ。
 そして、調布は音楽の街でもある。調布駅を出ると大きいロータリーがあり、その向こうに見える建物が調布市グリーンホール、その奥には調布市文化会館たづくり。北に10分ほど行けば、布多天(ふだてん)神社の先に桐朋学園大学の調布校舎。そこからさらに北には深大寺。楽器を持った若者も絶え間なく行き交う、コンパクトな音楽と文化の街なのである。

♪地域に根付いたフェスティバル

 調布で音楽祭が始まったのは2013年。当初の「調布音楽祭」から、2017年には「調布国際音楽祭」と名を変えて規模が拡大。調布の音楽家やアマチュアも出演する公演から、海外オーケストラの招聘まで実現し、今年はついに10回目という大きな節目を迎える。

 その中心にいるのはエグゼクティブ・プロデューサー鈴木優人と、その父である鈴木雅明。いまや日本の音楽界の中心的存在といえる親子が、ゆかりのある調布の音楽祭の顔となり、精妙かつ筋の通った企画、名演奏家たちによるトップレベルの公演を実現。「国際」の名にふさわしい内容を誇る音楽祭に成長させている。

鈴木優人(エグゼクティブ・プロデューサー)

 とはいえ、その活動を支えているのは地元の熱心なボランティアの方々による運営であり、会場の雰囲気を含めて、良い意味でのローカル感、手づくり感がしっかり感じられるのも、この音楽祭を特別なものにしているポイントだろう。  音楽祭のファンも順調に増えているところだが、第10回という記念の年、ファンならずとも注目せざるを得ない企画が並んだことで、これまで関わりのなかった方にもこの音楽祭を体験してほしいし、「調布」という街のファンが増えることも期待してやまない。

♪原点となったバッハは未来への道標に

 第10回のテーマは「“BACH” TO THE FUTURE~未来へつなぐ音楽祭~」。鈴木親子にとっても音楽祭にとっても大切な大作曲家、J.S.バッハがプログラムの柱となる。

 様々な切り口が可能な音楽祭だが、今回は特に話題の人気アーティストたちの出演が注目を集めている。
 まず、6月19日の音楽祭第10回記念 オープニング・コンサート「かてぃんplaysラプソディ・イン・ブルー」。「かてぃん」とは世界的な人気を誇るYouTuberピアニストであり、21年秋のショパン国際ピアノコンクールに出演した若き実力派ピアニスト、角野隼斗のこと。それぞれの大活躍で注目を集める角野の実演を体験できる好機となるし、同音楽祭アソシエイト・プロデューサーにしてYouTuberピアニストの先達でもある森下唯と角野の共演も実現するという。明治大学付属明治高等学校・中学校吹奏楽班も出演とのことで、オープニングらしい華やいだステージになるだろう。

角野隼斗 ©ogata

 そして、21日の昼には、ショパン・コンクールといえばこの人、第4位入賞の快挙で話題をさらった小林愛実のピアノ・リサイタルが開催される。シューベルト後期の境地を示すソナタ第19番と、コンクールでの名演で彼女の代名詞的楽曲となったショパン「24の前奏曲」が聴けるのは贅沢で、小林と音楽祭の意気込みが伝わってくる。

小林愛実 ©Makoto Nakagawa

 旬のアーティスト、テーマ作曲家のJ.S.バッハ、そして調布ならでは、という条件がそろう象徴的な舞台が、22日午後の深大寺公演。深大寺本堂の中で体験できる演奏会は音楽祭の名物であり、今年は「鈴木雅明 × 岡本誠司 〜深大寺本堂に響くバッハ〜」と題してバッハに正面から取り組む。岡本誠司も大活躍中のヴァイオリニストで、昨年、世界最難関のひとつとされるARDミュンヘン国際音楽コンクールで優勝という大快挙を成し遂げたばかり。バッハの世界的巨匠である鈴木雅明のチェンバロと岡本のヴァイオリンがどんな世界を生み出すのか。深大寺の自然に包まれた峻厳な空間で味わうバッハの名曲、記憶に残る時間となるだろう。

毎年人気の深大寺本堂での公演では声明も堪能できる
岡本誠司

 音楽祭最終日となる26日は、本格的なクラシックコンサートをたっぷり楽しめる。
 昼にはNHK交響楽団が音楽祭初登場(「N響×鈴木優人」)。指揮は鈴木優人で、人気の若き名ヴァイオリニスト郷古廉も共演。この顔ぶれでJ.S.バッハ(鈴木優人編)「パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582」、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」という名曲をがっちり堪能できるのは嬉しい。

 夜には「バッハ・コレギウム・ジャパン バッハ超名曲選!」と題して、バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)が登場。創設者鈴木雅明の指揮と選曲による「超名曲選!」は、ポップな語感とは対照的にカンタータを中心とする硬派な選曲だが、心の深いところに触れる真の「名曲」ばかり。カンタータ中の楽曲を再構成して「合奏協奏曲」「オルガン協奏曲」を新しく提示するという試みは興味深いし、活躍中のソプラノ中江早希の美声によるカンタータ第51番、華やかな管弦楽組曲第4番が聴けるのも嬉しい。昼の指揮に続いて鈴木優人がオルガンで出演するのも注目。世界に誇るBCJのバッハに深く浸れる時間となる。

郷古廉 ©︎Hisao Suzuki
2021年バッハ・コレギウム・ジャパンの公演より

♪あらゆる世代が楽しめる公演ラインナップ

 アンサンブルや室内楽、キッズ・プログラムもしっかり用意されている。
 23日昼には、フェスティバル・ガラ「名手たちの室内楽」で、N響のゲスト・コンサートマスターを務めるヴァイオリン白井圭、チェロ山本徹、フルート上野星矢、ホルン福川伸陽ほか話題のアーティストたちが集い、プーランク、フランク、ブラームスの管楽器入りの楽曲で、その美しい音色と卓越したアンサンブルを聴かせる。

 24日昼には「お昼のクラシック〜ツィゴイネルワイゼンからボヘミアン・ラプソディまで〜」。ギター村治佳織、ヴァイオリン廣津留すみれ、サクソフォン上野耕平、ホルン福川伸陽、ピアノ森下唯と、注目を集めるアーティストたちが人気楽曲の名旋律を聴かせる。ピアノ&司会の鈴木優人による「まさト~ク付き」というのも面白そう。

 週末(25日、26日)の昼には、こどもたちのためのプログラムがあり、土曜は栗コーダーカルテット、日曜は地元の桐朋学園大学の打楽器科が登場。聴いたり参加したりと、親子そろって楽しい時間になるはず。

音楽祭の常連、栗コーダーカルテットは今年も登場
桐朋学園大学打楽器科学生たちの「たたいてあそぼう」

 最後に、音楽祭の顔ともいえる企画、25日夜の「フェスティバル・オーケストラ~ドイツ・ロマン派の輝き~河村尚子を迎えて」を取り上げたい。音大生からアマチュアまで、若者を中心に公募でメンバーを集め、指揮は鈴木雅明が担当。各セクションの講師としてプロオーケストラの首席奏者たちが招かれ、演奏にも参加する。若手奏者たちにとっては、講師たちの指導と共演、鈴木雅明の熱い指揮でステージに立つ経験、すべてが貴重そのもの。今年はメンデルスゾーン「フィンガルの洞窟」、シューマンのピアノ協奏曲、ブラームスの交響曲第1番という、19世紀ドイツ・ロマン派の名作3曲。協奏曲には現在最高のシューマン弾きのひとり、河村尚子を迎えるということで、彼女の深きピアニズムを味わえるだけでも垂涎の聴きもの。当音楽祭の意義のひとつでもあるアカデミー的要素も持たせつつ、聴衆にとってはオーケストラ・サウンドをたっぷりと楽しめる一夜となる。

2021年 フェスティバル・オーケストラを振る鈴木雅明
河村尚子 ©Marco Borggreve

写真提供:調布市文化・コミュニティ振興財団

調布国際音楽祭 2022
2022.6/18(土)〜6/26(日) 調布市グリーンホール、調布市せんがわ劇場、深大寺 他
チケット一般発売 4/15(金)
問:チケットCHOFU 042-481-7222
※音楽祭のプログラム詳細は、公式ウェブサイトをご覧ください。