鈴木幸一(東京・春・音楽祭実行委員会 実行委員長)

多くの人が音楽に触れる機会を作り続けたい

(c)大倉英揮

 上野の春の風物詩「東京・春・音楽祭」が、今年も3〜4月に開催される。同音楽祭はコロナ禍のここ2年も可能な限りの公演を行い、昨年は巨匠リッカルド・ムーティ指揮のヴェルディ《マクベス》が年間トップ級の賞賛を博した。実行委員長を務める鈴木幸一も、まずはその成果を喜ぶ。

 「ムーティが来てくれて、東京春祭オーケストラが素晴らしい演奏を聴かせた。あれが一番嬉しかったですね。彼らは2016年にイタリアへ連れて行った時から、東京春祭の宝になるのではないかと思っていましたが、ムーティのアカデミーを経て、歌手ともどもオペラを作れるレベルになり、一つの方向性ができた気がします。また大手町で『子どものためのワーグナー』を開催できたのも良かった。演奏家だけでなく、聴き手も育てないといけません。こうした機会や(2020年は中止になった)新宿御苑でのベルリン・フィル公演などを通して、子どもや今まで聴いてこなかった人たちにクラシック音楽に触れてもらい、次の時代に繋げていきたいと思っています」

 2022年も目移りするほど多彩な公演が予定されている。

 「今年もムーティと東京春祭オーケストラとのコンサートを行います。それからマレク・ヤノフスキ指揮のワーグナー《ローエングリン》。彼は《リング》以来、N響ともいい関係にありますし、その個性的なワーグナー演奏に期待しています。さらには『ベンジャミン・ブリテンの世界』やバスバリトンのブリン・ターフェルの公演も要注目。特に前者は児童合唱が出演する関係から2年続けて中止になったので、ぜひ開催したい。また『名手たちによる室内楽の極』では長原幸太さん(東京春祭オケのコンサートマスター)らがモーツァルトを演奏しますが、これは昨年のムーティとのモーツァルトに刺激を受けての挑戦です。もちろん『子どものためのワーグナー』も重要。バイロイト音楽祭総裁のカタリーナ・ワーグナー(ワーグナーの曾孫)も熱が入っていて、スケジュールを調整してまで来日してくれようとしています。昨年は一部配信になったミュージアム・コンサートも、優秀な若手音楽家が多数参加し、全公演有観客で開催する予定です」

 なお、昨年初めて行ったライブ・ストリーミング配信もかたちを変えて実施される。しかも今年は「効率の良い新たな方法を検討中」との由。こちらはインターネットイニシアティブ代表取締役会長・鈴木の専門分野でもある。

 氏は「困難な状況だからこそ、続けることに意味がある」と話す。

 「やり続けることで音楽の世界を少しでも変えられるのではないかと考えています。先ほど話したように、普段触れていない人たちにも『音楽は素晴らしいものだ』と感じるような体験をしてもらいたい。音楽には人を感動させる力があります。ですから今後を見据えたビジョンを持って、その感動を共有する機会、少しでも音楽に関心を持ってもらう機会を作り続けたいですね」

 コロナ禍で海外組の来日が未知数でも、全公演開催の実現に向けて「できる限り粘る」という。

 「こうした難しいことが起きても、それを乗り越えることが人を成長させると思っています。ですからくじけることはいっさいありません」

 この意欲が反映された数々のハイクオリティな公演を、今年もぜひ満喫したい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年3月号より)

東京・春・音楽祭 2022【配信あり】
2022.3/18(金)〜4/19(火)
東京文化会館、東京藝術大学奏楽堂(大学構内)、旧東京音楽学校奏楽堂、上野公園内博物館・美術館 他
問:東京・春・音楽祭実行委員会03-5205-6497
https://www.tokyo-harusai.com
※音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。