佐藤晴真と広渡勲が第32回 日本製鉄音楽賞を受賞

左:佐藤晴真 (C)ヒダキトモコ  右:広渡勲

 第32回 日本製鉄音楽賞の受賞者が発表された。〈フレッシュアーティスト賞〉にはチェロの佐藤晴真が、〈特別賞〉にはプロデューサー、演出家の広渡勲が選出された。ふたり揃ってのインタビューを行うことができた。

 チェロの佐藤晴真は2019年のミュンヘン国際音楽コンクール・チェロ部門で日本人として初の優勝者となり、すでに国際的な注目を集めると同時に、日本国内でも積極的な活動を行い、録音もリリースしている。
  「歴史ある賞をいただき、本当にあらためて身が引き締まる思いです。これからもひとつひとつの演奏の機会を大事にし、精進していきたいと思います」と力強く受賞の喜びを語ってくれた。

 長年にわたり日本のオペラ界など様々な舞台の現場で活躍し、ひとつの時代を作ってきたプロデューサー・演出家である広渡勲も、「私のような年寄りがこういう賞をいただいて、本当に良いのだろうかとも思いましたが、こうした時代に、改めて日本の舞台芸術の歴史に注目をしてもらい、このコロナ禍の時期以降にどうやって舞台芸術を進めていくか、その参考にしてもらえれば良いのかなと思い、喜んで賞をいただくことにしました」と、経験豊富な“現場の人”としての感慨を話してくれた。

 この32回の歴史を振り返ってみると、チェロ奏者としては長谷川陽子(第2回)、岡本侑也(第25回)以来、3人目のフレッシュアーティスト賞の受賞者となった佐藤。現在もベルリン芸術大学に在籍し、イェンス=ペーター・マインツの元で研鑽を積んでいる。
「チェロ奏者に限らず、演奏家にとって学ぶことはたくさんあり、学び続けることも大事です。また自分が体験したコンサートの感動の記憶も大切で、ラドゥ・ルプー(ピアノ、先頃引退を発表)や、師でもある山崎伸子先生の演奏などから大きな影響を受けました。そうした感動を、今度は自分がより若い世代に伝える側になりたいとも思います」
 
 広渡もその発言に続けるように、生きた舞台の感動について語る。
「私も最初に三島由紀夫さん脚本の『黒蜥蜴』(1962年)の上演に関わり、それ以降オペラ、バレエだけでなくジャズの公演などにも携わってきました。それぞれにスタッフとして関わりながら、その舞台の感動を次の舞台の意気込みに繋げていく。それが聴衆の方々に伝わり、さらに大きな感動の舞台を実現させていく。日本の舞台芸術の歴史はそうやって、まさに手作りされてきたのだと思います。その感動の原点、生の舞台を観て感動するということが、どうやら今の時代は希薄になっているような気がします。佐藤さんのような若いアーティストにも協力していただいて、これからもステージでの感動を伝えていきたいです」

 世代を超えて「現在」に向き合うふたりの言葉の中には、過去を忘れず、未来を見据えるアーティストの意気込みが感じられた。おふたりの受賞を祝うと同時に、これからの活動にも注目していきたい。
取材・文:片桐卓也

日本製鉄音楽賞
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