漆原啓子(ヴァイオリン)

デビュー40周年をロシアプログラムで彩る

 日本を代表するヴァイオリニストの一人、漆原啓子が東京藝術大学附属高校在学中の1981年、18歳で第8回ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールに優勝(史上最年少&日本人初)して40年の節目に、全3回の記念リサイタルシリーズを企画した。第1回は3月13日、東京文化会館の小ホール。東京藝大からモスクワ音楽院に進んだピアニスト、秋場敬浩との共演でシュニトケ、プロコフィエフ、チャイコフスキー、ババジャニアンからなるロシア音楽プログラム。「コンクール優勝後に帰国してすぐジャパン・アーツと契約して40年。色々なことがあり、必死に生きてきましたが、子育ても終え、今は音楽に集中できます。本当に幸せな40年でした」と、漆原は振り返る。

 大阪で最初の手ほどきを受けた師から、大阪フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター(当時)の阿部靖を紹介され、今日につながる基礎を徹底的にたたき込まれた。

 「ドイツに留学された先生でしたが、『自分のメソードはロシア系だ』とおっしゃっていました。ロシア音楽の“深く広い大きさ”が自分にはしっくりきます。チャイコフスキーは元々大好きな作曲家でした」

 「40周年の記念に何を弾こうかしら?」と考えていた矢先、ピアニストの野平一郎から今回共演する秋場のリサイタルに誘われた。

 「チャイコフスキーの『四季』を聴き、オーケストラのように立体的な音楽が聴こえてきた瞬間、秋場さんと一緒にロシア音楽を奏でるアイディアを授かったのです」

 冒頭のシュニトケ「古風な様式による組曲」は短い5曲で構成され「古典的で聴きやすい作品です」。長く弾き込んできたプロコフィエフ、チャイコフスキーを経て、最後はアルノ・ババジャニアン(1921〜1983)の「ヴァイオリン・ソナタ」。旧ソ連時代に「人民芸術家」の称号を授かったアルメニア出身の作曲家・ピアニストで同朋のハチャトゥリアン同様、民族色の濃い作品を残した。秋場が「漆原さんに向いています」と提案した数多くの作品の中で、「この曲が最も面白いと思いました。作曲家の名前すら聞いたことがなかったのに…(笑)」。

 残る2回はフランス音楽、ドイツ音楽でまとめるつもり、という。

 「偉大な先生、先輩と身近に触れるたび、見た目はともかく、『心は少年少女じゃないと、音楽はやっていられない』と思います」

 漆原啓子の音楽を見つめ、究める眼差しも少女の輝きを保ち続けている。
取材・文:池田卓夫
(ぶらあぼ2022年2月号より)

漆原啓子デビュー40周年記念
漆原啓子(ヴァイオリン) & 秋場敬浩(ピアノ) デュオ・リサイタル
2022.3/13(日)14:00 東京文化会館(小)
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
https://www.japanarts.co.jp