高坂はる香のワルシャワ現地レポート♪2♪
ショパン・コンクール オープニング・ガラコンサート

取材・文&写真:高坂はる香

 第18回ショパン国際ピアノコンクール。10月2日、オープニング・ガラコンサートでいよいよ開幕しました! このエントランスからあふれだす人々。始まったな、という感じがします。

オープニング・ガラ開演30分前のワルシャワ・フィルハーモニーホール
ちなみに、何も行われていない昼間の様子はこちらです

 入口では、チケットに加えてワクチン接種証明のチェックがあります。とはいえ、現地のみなさんがQRコード付きのものを提示してスキャンされているのに対し、我らが日本のワクチンパスポート(日英表記、A4ペラペラの紙)は、一瞥くれるだけで、「はいどうぞ」と通されます。三つ折りにしてあったのを開くタイミングすらなかった……。

 ちなみに、ホールの中ではみんなしっかりマスクをしていましたが、外ではほとんど誰もマスクをしていません。今日、むしろマスクして歩いているのが場違いな感じがするくらいでした。 さて、いよいよホールの中へ。


 コンクールごとに毎回、ステージには異なった装飾が施されますが、今回は、ちょっと古くて新しいみたいなデザインですね。このしゃらしゃらしたそうめんのようなものがモチーフになっている模様です(たぶん、そうめんじゃなくてピアノの弦のイメージなんだと思いますが)。

コンサートの最中も“そうめん”は風で揺れていました。
ピアニストは気にならないのだろうか。
ホールのホワイエにもオブジェが

 オープニング・ガラコンサートは、先の記事でお伝えしたとおり、当初出演予定だった審査員のアルゲリッチがキャンセル。代わりに2010年の優勝者、ユリアンナ・アヴデーエワが出演しました。
 まだ客席が全然落ち着かないなか、定刻通りにコンサートはスタート。しかしアヴデーエワとベルチャ弦楽四重奏団によるシューマンのピアノ五重奏曲が始まると、そのしなやかで強いサウンドの掛け合い、気持ち良く水の中を泳いで行くかのような音楽の流れに、客席は引き込まれました。

 続いて演奏されたのは、J.S.バッハの4台ピアノと弦楽のための協奏曲BWV1065。 ピアノはアヴデーエワに加え、ダン・タイ・ソン(1980年優勝)、ケヴィン・ケナー(1990年最高位)、フィリップ・ジュジアーノ(1995年最高位)という3人の審査員が担うという、豪華な顔ぶれです。楽器もこのあとコンクールで活躍するピアノのうちの4台(2台のスタインウェイと、ヤマハ、カワイ)が並びました。ショパンが敬愛したバッハの作品が、会場を、晴れやかかつ雅やかな空気で満たします。

 後半は、前回の優勝者、チョ・ソンジンをソリストに迎え、ワルシャワ・フィルとともにベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番が演奏されました。指揮は2019/20シーズンからワルシャワフィルの芸術監督に就任した、アンドレイ・ボレイコ。今回からコンクールのファイナルの指揮も担当することになります。
 チョ・ソンジンは、芯のある力強い音、柔らかく滑らかな音を巧みに使いわけ、余分なものはなにもない、爽やかで前向きなベートーヴェンを聴かせてくれました。

 ところでこのコンサート、ショパンコンクールのオープニングでありながら、プログラムにショパンはなし……。そんな中、チョ・ソンジンが、1曲目のアンコール、シューマン「森の情景」より〈孤独な花〉に続けて2曲目に、ショパンのワルツ第1番「華麗なる大円舞曲」を演奏してくれました。

 同音が続く冒頭のフレーズが奏でられた瞬間、客席(少なくとも私のまわり)では、やっぱりそうこなくちゃ、といわんばかりの「ホゥ〜」というため息が漏れていましたね。 この6年で、彼はどれほどこの曲をアンコールに弾いてきたのでしょう。遊び心と絶妙なこなれ感。前回このコンクールが送り出したスターの成長と6年という時間を思いながら、オープニングコンサートは幕を閉じました。

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/