【記者会見】團伊玖磨没後20年に贈る全国共同制作オペラ《夕鶴》

 團伊玖磨の没後20年を記念し、今年10月に東京、そして来年に愛知と熊本で上演される全国共同制作オペラ 團伊玖磨:歌劇《夕鶴》(新演出)の記者会見が9月28日に行われた。演出の岡田利規、指揮の鈴木優人(愛知・熊本)と辻博之(東京)、小林沙羅、与儀巧ら出演者が出席した。

左より:与儀 巧、工藤響子(ダンサー)、小林沙羅、寺田功治、岡田利規、三戸大久、鈴木優人、岡本 優(ダンサー・振付)、辻 博之

 全国共同制作オペラは、全国の劇場や芸術団体などが連携して、オペラを新演出で共同制作し、国内巡演するプロジェクト。2009年度にスタートし、過去の公演には、井上道義指揮・野田秀樹演出による《フィガロの結婚》(15)、ダンサー・振付家の森山開次演出による《ドン・ジョヴァンニ》(19)など、話題作が並ぶ。

 今回演出を手がけるのは、演劇カンパニー「チェルフィッチュ」を主宰し、欧州で高い評価を受け注目される岡田利規。これまで多く上演されてきた名作の新たな魅力が再発見できる新演出となりそうだ。
 岡田は、自身初となるオペラ演出について次にように語った。
「オペラを含めた演劇は、今を生きる人に向けておこなわれます。この作品を演出するうえで最初に思ったことは、《夕鶴》が持っているポテンシャルの強さをむき出しにして観客に突きつけたいということでした。オペラを含め音楽とは『物語』や『意味』から切り離された表現形式で、そういう部分に関わるのが演出だとこれまで思っていましたが、実はオペラは物語や登場人物の心理に深く寄り添っていることが、僕にとって新しい発見でした。オペラは、ストーリーや人物描写といったほぼすべてを音楽によって描写しているので、そこに演出が関わって何かをする必要はありません。では代わりに何をするのか? オペラの演出とは何をするのか? そうしたことを見つけられたら楽しいなと思っています」

中央:岡田利規

 今回の《夕鶴》は、指揮者が2人体制で上演するというところも注目。東京公演は、長きにわたり全国共同制作オペラで副指揮者を務めている辻博之が、愛知・熊本公演はバッハ・コレギウム・ジャパン首席指揮者の鈴木優人がタクトを執る。

 鈴木は、「指揮者が2人いるオペラプロジェクトはなかなか珍しいので、その体制を生かしたいと考えています。この作品は、子どもの頃に読んで以来ストーリーが心に刺さっていてとても悲しい気持ちで作品を捉えていましたが、その当時の自分と、結婚して子どもがいる今の自分では、この話の捉え方が変わっていることに気づきました。日本人のオペラとして異例なほど上演されている作品に、新演出によって新たな光が射し込む現場に立ち会えるのを嬉しく思っています。チーム全体が家族のような雰囲気でつくりあげていくなかで、それぞれが思う夕鶴の姿が明るみに出てくるのではと楽しみにしています」と期待感を語った。

鈴木優人
辻 博之

 辻は、「この共同制作プロジェクトでは、これまで何度も再演されてきた《夕鶴》に、21世紀ならではのチャレンジ精神に富んだ新しい試みが取り入れられています。岡田さんの演出でこのオペラをつくっていくのなかで、心理描写や演劇の間(ま)が本当に見事に描かれている作品であることを改めて感じ、この時代の演出に対応して余りある素晴らしい音楽であることを実感しています。観客が『これは自分なのかもしれない』と4人の登場人物の誰からに自分を重ねて見るような、社会の縮図が浮かび上がってくるこの作品に、皆さんと一緒にエネルギーを化学変化させながら参加できることを嬉しく思っています」と意気込む。

 つうを演じる小林は、「つう役との出会いは、坂東玉三郎さんが主宰する演劇塾で日本舞踊、バレエなどを習っていた中学生の頃。坂東さんがつう役を演じた舞台がとても美しくて、『私もつうを演じてみたいな』と感じたことを覚えています。今回ワークショップを重ねていくうちに、『今まで自分が膨らませてきたこの作品やつうのイメージを一度リセットして新たにつくりあげていこう』という気持ちになりました。今までの《夕鶴》があったうえで、現代の私たちが新しい視点で見た時にこの作品の本質をどういう風に届けていけるのか、という地点に立ってつくっていけたらと思います。今まで自分の感情で歌ってきたものを、いったん感情を無にして歌っていくと歌だけでなく動きも変わってきます。まっさらな状態から始めると今までと違った面白さが見えてきて、とても新鮮です。岡田さんのもと、このメンバーでしかできない《夕鶴》をお届けすることを楽しみにしています」と役への想いを語った。

小林沙羅

 与ひょう役を務める与儀は今回の舞台について、「岡田さんの演出は、動きをつけるだけでなくディスカッションをして、自分が関わらないところも全員で意見を出し合って解釈を深めていき、模索していきます。これは初めての体験で、ワークショップを重ねてきた今は他の役に対してもとても興味を持っています。こんなに他の役のことを考えたことはなかったので、毎日が驚きと発見でいっぱいです」と手応えを語った。

与儀 巧

 寺田功治は、運ず役について次のように語った。
「今までにない運ずになるのではと思っています。運ずは、与ひょうから最初に織り布をもらってそれをお金にする役ですが、惚どとは違ってつうにむりやり機(はた)を織らせることを可哀想に思う優しい気持ちを持っている人。今まで上演されてきた夕鶴は、惚どの腰巾着のような存在ですが、衣裳の面でもどういったキャラクターになるのか探りながら役をつくっていきます」

 惣ど役の三戸大久は、「ずっとやりたかった役を初めて演じます。この役に対して親分のような大柄なイメージを持って稽古に臨んだのですが、ワークショップをやってみると体型や外見は関係ないということを目の当たりにしました。内面から出てくるキャラクターや、人が何かを想う時にどういう動きをするのかを岡田さんに一から伝授いただいて、一緒に考え、ようやく光が見えてきたような気がします。團先生の遺志は守りつつ、新しい《夕鶴》が生まれるのではと思います」と意欲をみせる。

左:寺田功治 右:三戸大久
舞台装置の模型

 会見では、舞台装置の模型と衣裳デザインのスケッチも公開された。
 現在ワークショップやリハーサルの準備が進められているなか、鈴木と辻は指揮者同士でさらに音楽的な観点から話し合いを重ねていく行程も楽しみだと語っていた。10月の東京公演の後、来年の愛知公演と熊本公演に向けて鈴木による短い稽古も予定されているという。
 昔から語り継がれてきた《夕鶴》が現代の物語として生まれ変わる新演出公演、大いに期待したい。

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●interview 小林沙羅(ソプラノ)

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【Information】
全国共同制作オペラ
東京芸術劇場シアターオペラ Vol.15
團伊玖磨 歌劇《夕鶴》新演出(全1幕・英語字幕付・日本語上演)

指揮:辻 博之(10/30)、鈴木優人(2022.1/30,2/5)
演出:岡田利規 
管弦楽:ザ・オペラ・バンド(10/30)、刈谷市総合文化センター管弦楽団(2022.1/30)、九州交響楽団(2/5)
合唱:世田谷ジュニア合唱団(10/30)、アイリス少年少女合唱団(2022.1/30)、NHK熊本児童合唱団(2/5)

配役 
つう:小林沙羅
与ひょう:与儀 巧
運ず:寺田功治
惣ど:三戸大久
ダンサー:岡本優、工藤響子(以上TABATHA)

2021.10/30(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール 
問:東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296
https://www.geigeki.jp

2022.1/30(土)14:00 刈谷市総合文化センター アイリス  
問:刈谷市総合文化センター0566-21-7430
https://kariya.hall-info.jp

2022.2/5(土)14:00 熊本県立劇場 演劇ホール

10/1(金)発売
問:熊本県立劇場096-363-2233
https://www.kengeki.or.jp


《夕鶴》特設サイト https://www.opera-yuzuru.com