年末恒例! 熱血オペラティック・バトル
2016年にスタートした「オペラ歌手 紅白対抗歌合戦」もついに4回目に突入。「クラシック音楽界の年に一度の恒例行事として定着させたい」という主催者の想いも、実りつつあると言っていいだろう。まだご存じではない方のために説明すると、大晦日の夜、家族揃ってテレビの前で観戦するのが正しい日本人の姿とされている(?)国民的人気歌番組、あの番組の「オペラ歌手版」だと思っていただければ。日本声楽界を代表する人気オペラ歌手たちが、所属団体の枠を超えて日本のクラシック音楽の殿堂サントリーホールに会し、名アリア・名重唱を披露する。それを、集まったお客様たちが審査するという一大バトルなのだ。しかも、本家さながらに麻布大学野鳥研究部が客席の紅白の投票を集計するという徹底ぶり。歌手が集まってアリアなどを歌う「ガラ・コンサート」はよくあるが、「歌合戦」という客席参加型のバトルであるところが面白い。噂がうわさを呼んで、一昨年からホールは満席だとか。ただ「聴く」だけじゃない、観客が歌手の歌を「ジャッジする」という聴く方にとっても心躍る演奏会である。
さて、今年は例年にも増して、ベテラン含め豪華なメンバーが揃った。まずは注目の初出場歌手によるオペレッタ《こうもり》。紅組は、今年、「近江の春 びわ湖クラシック音楽祭」でプーランクの《声》を歌って大注目を浴びた石橋栄実。曲はアデーレの〈田舎娘を演じる時は〉。どんなコケティッシュなアデーレを見せてくれるだろうか。白組はカウンターテナーの藤木大地。言わずと知れた、今もっとも注目を集める日本人歌手のひとりだ。ソロ・リサイタルや新作オペラなどで大活躍の藤木が歌うのは、オルロフスキー公爵の〈お客を呼ぶのはわたしの趣味で〉。オルロフスキー公はカウンターテナーとメゾソプラノが歌うケースがあるが、今回のパフォーマンスで「やっぱりカウンターテナーだね!」と観客に言わしめることができるか。
さらに紅組で楽しみな初出場歌手は、ソプラノの佐々木典子だ。近年オペラの舞台は後進に譲っているという大ベテランが、ワーグナーの《タンホイザー》から〈崇高な殿堂よ〉を歌う。この1曲だけのために会場に駆けつけたいファンも多いのではないだろうか。
他に注目したいのは、重唱を披露する4組だ。伊藤晴・加納悦子(《コジ・ファン・トゥッテ》より〈ねえ見て、妹よ〉)、森谷真理・鳥木弥生(《蝶々夫人》より〈花の二重唱〉)、佐野成宏・青山貴(《ドン・カルロ》より〈我らの胸に友情を〉)、山本耕平・晴雅彦(《こうもり》より〈一緒に夜会へ行こう〉)の8名が登場する。いずれも歌唱力が素晴らしく、芸達者揃い。想像するだけで、ものすごいバトルが繰り広げられるのではとワクワクする。
第1回からの皆勤賞であるソプラノの腰越満美、佐藤美枝子、砂川涼子、テノールの村上敏明、バリトンの須藤慎吾など、おなじみのメンバーもたくさん登場する鉄壁の布陣。年末の予定に、ぜひこの「オペラ歌手紅白対抗歌合戦」を入れてみてはいかがだろうか。
文:室田尚子
(ぶらあぼ2019年11月号より)
2019.12/3(火)18:30 サントリーホール
問:ヴォートル・チケットセンター03-5355-1280
http://operaconcert.net/