マーク・パドモア(テノール) & 大萩康司(ギター)

奇跡の共演! 繊細な響きが交差する至福の時

左:マーク・パドモア ©Marco Borggreve
右:大萩康司 ©SHIMON SEKIYA

 抑制の効いた繊細な響きは英国テナー独特の伝統。マーク・パドモアの歌にはその典型ともいえる魅力がある。美しい声を派手にひけらかすのではなく、透明な歌と言葉で聴き手の心に直接語りかける。その美質が最もフィットするのが「語る音楽」。得意とするバッハの福音史家や、言葉と音楽が一体となる歌曲の世界だ。

 そのパドモアの歌曲の多彩な陰影を、奏者の息づかいを間近で共有できる室内楽ホールで、繊細なギターとのデュオで味わえるとは幸せ。しかもそのギターが大萩康司だ。こんな顔合わせを聴けるとは思ってもみなかった。大萩の経歴と実力からすれば「抜擢」などという言い方はまったくふさわしくないけれど、意外性は十分。「奇跡の初共演」と言っても許されるだろう。じつに楽しみ。

 ダウランドのリュート歌曲からブリテン、アレック・ロス(1948〜)に至る英国音楽でシューベルトの歌曲をはさむプログラムは、パドモアが提案したもの。大萩によれば、パドモアがここまでギターを熟知していることに驚かされたという選曲で、ギタリストにとってもかなり歯ごたえのある作品が並んでいるそう。

 大萩自身、この公演を「今年のハイライト」と位置付けて心待ちにしている。音楽シーズンたけなわの秋、演奏家にとっては大きな稼ぎ時のはずだが、パドモアとの共演に全集中すべく、10月には他にコンサートを入れていないのだとか。なんと素敵な意気込み! これは聴き逃せまい。
文:宮本 明
(ぶらあぼ2024年9月号より)

2024.10/16(水)19:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222
https://www.toppanhall.com