Concerto <以心伝心> 2024
心を通わせて—40年、共に歩み続けるふたりの協奏
時空を超えた不朽のコンチェルトを愛してやまない小山実稚恵。愛すべき指揮者。信頼のオーケストラ。音楽にいだかれたい私たち聴き手。開館40周年も視野に入ってきたサントリーホール。この、どれひとつ欠けても成り立たないパフォーミングアーツの華、それが小山実稚恵サントリーホール・シリーズ Concerto<以心伝心>2024だ。
実稚恵さんの盟友・大野和士指揮の東京都交響楽団(第1回)、実稚恵さんが敬愛する小林研一郎指揮の日本フィルハーモニー交響楽団(第2回)に続く第3回の<以心伝心>。今秋の指揮者は広上淳一、オーケストラはNHK交響楽団で、モーツァルト最後のピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K.595とブラームス若き日の肖像とも言うべきピアノ協奏曲第1番 ニ短調 op.15が選ばれた。音楽の女神がひらりと舞いおりたかのようなモーツァルトと、烈しくも美しいブラームス。
実稚恵さんは開口一番「どちらも大好き。この2曲の組み合わせも大好き。私たちが演奏の場に立つようになってから、もう何年になりますか…(かれこれ40年では、とお話すると)まあ、そんなに。広上さんと私は、まさに同じ時代を歩んできた同志ですね。本当は繊細なのだけれど、それを見せない人間・広上淳一をよく知っているという感じです。
広上さんの音楽づくりには気高さも遊び心もあります。美しい世界を誰よりも愛でる広上さんと、時にそれを破壊する(笑)広上さん。相反する世界が共存しています。二面性があるわけですが、彼はそれを演じているのではなく、ほんとうに自然に、音楽の流れのなかで表現するのです。
おこがましいですが、リハーサルは的確、組み立てもかっちりしています。指揮の技術も素晴らしいですが、広上さんはそれを絶対にひけらかしません。一緒に演奏していて、いつも“今日はどこまで連れて行ってくださるのかな”という気持ちになります。最近は前よりも“歌われます”。沢山の気づきをくださるマエストロです」
広上「照れるな。実稚恵さんのことを最初に知ったのは1985年、ショパン・コンクールの番組を観たときです。前の年に(オランダ、アムステルダムのコンセルトヘボウで開催された)コンドラシン・コンクールに優勝し、アムステルダムの屋根裏部屋に住んでヨーロッパでの仕事が始まった頃でした。同じ世代に、なんて素敵なピアニストがいるのだろう、と勝手に嬉しくなったものです」
二人のモーツァルトとブラームスへの想いは尽きない。
小山「K.595って、ラルゲットの第2楽章もDur(ドゥア、長調、ここでは変ホ長調)なのです。モーツァルトは本当に哀しいとき、Durになるのかも知れません。付点や三連符のリズム、和音、オーケストラの編成──それぞれシンプルなのに品格があって、しかも心にすっと語りかけてくる音楽です。第3楽章のカデンツァのあと、オーケストラが、さざ波のように入ってきますが、あの場面、言葉になりません。ブラームスも最初から素敵。深く決然としたティンパニの出だし、ドラマもある弦の音。弾く前から心がかきむしられます。第3楽章のフガートもいいですよね」
広上「実稚恵さんって、こういうふうにオーケストラのことを沢山話してくださるピアニストなのです。いいでしょう! オーケストラに溶け込む才能、寄り添う能力が天才的にある方なのです」
小山「モーツァルトもブラームスも、オーケストラ(のパート)に、私たちを包み込むような音楽を書いていますよね。ピアノ以上に(笑)。それで自分が弾かないところも益々好きになるのです」
広上「ブラームスの1番には忘れられない思い出があります。僕の日本デビュー曲なのです。1985年、アシュケナージ先生とのコンチェルト、N響でした。ピアノの弦が切れたことも覚えています。昨年の夏、実稚恵さん、N響と共演したときもブラームスの1番でした。リハーサルの間に恩師・外山雄三先生の訃報を聞きました。いろいろな縁を感じざるを得ません」
小山実稚恵と広上淳一はインタビューを次の言葉で締めくくった。
「ブラームスの第2楽章アダージョをきちんと創りたいね」
10月5日土曜午後4時、サントリーホール。慈愛に満ちたニ長調の調べも客席の喜びとなる。
取材・文:奥田佳道
(ぶらあぼ2024年9月号より)
小山実稚恵 サントリーホール・シリーズ
Concerto <以心伝心> 2024
2024.10/5(土)16:00 サントリーホール
出演
小山実稚恵(ピアノ)、広上淳一(指揮)、NHK交響楽団
曲目
モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K.595
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 op.15
問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017
suntory.jp/HALL/