世界各国から集った45名の出場者が参加して、2月10日から2週間にわたり熱戦が繰り広げられた第6回高松国際ピアノコンクールは、23日の入賞者披露演奏会で幕を閉じました。若者たちがさまざまな課題に果敢に挑戦する姿に、会場からも大きな拍手が送られていました。本選(ファイナル)の審査を見守った音楽ライターの高坂はる香さんに、現地の様子をレポートしていただきます。

取材・文:高坂はる香
創設から20年を迎えた、高松国際ピアノコンクール。回を重ねるごとに参加者のレベルが上がる中、今回のファイナルに駒を進めた5人のピアニストたちは、舞台慣れの度合いや音楽性に違いこそあれ、自分のやりたい音楽を明確に持った若者ばかりだった。そのうえ個性がそれぞれに全く異なり、それを改めて示すように、(偶然ではあるが)一人もかぶることなく、各人に似合った5種類のコンチェルトを選択していたこともおもしろかった。
ファイナルは2月21日、22日、サンポートホール高松で、広上淳一指揮、瀬戸フィルハーモニー交響楽団との共演で行われた。以前、ファイナルは5名が1日で演奏する形だったが、2023年の前回大会からは2日間にわたっての開催。開場時間にはホール前に長い列ができ、地元の音楽ファン、ピアノ愛好家にとって注目度の高いイベントとなっていることが窺えた。

初日のトップに登場したパク・ヘリム(韓国/19歳)は、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を演奏。憧れのコンチェルトへの情熱をぶつけるように、全ての音をくっきりと鳴らし、華のあるピアニストであることが伝わってくる。ファイナリスト中最年少の彼女は、第4位となった。

エリザベス・ツァイ(アメリカ/26歳)は、ブラームスのピアノ協奏曲第1番を選択。2024年にデルモルトのブラームス・コンクールで優勝している彼女にとっては、得意のレパートリーなのだろう。オーケストラとしっかりコミュニケーションをとりながら、理知的に、しかし時に一気に湧き上がるような表現をする場面もつくりながら、丁寧に音楽を紡いでいった。落ち着いていながら充分ドラマティックにブラームスの世界を描き出して、第3位に入賞した。

ロマン・フェディウルコ(ウクライナ/21歳)は、コンクールの人気レパートリーであり、青柳晋審査員長曰く「審査員たちもつい、お手並み拝見という意識で聴くことになりがち」なラフマニノフのピアノ協奏曲第3番で勝負をかけた。ボリュームたっぷりの音を鳴らし、まっすぐにエモーションをぶつけるかのような音がインパクトを与え、そのエネルギーが最後までしっかりと続く。むしろ終盤に至る頃にはオーケストラの音の波に乗ってますます力を増し、駆け抜けるような華麗なフィナーレを演出して、見事優勝に輝いた。
演奏後、マエストロ広上がフェディウルコの肩をバシバシと叩いて熱演ぶりを労っていた姿が印象的だったが、ピアニストのほうも授賞式でしきりにマエストロへの感謝を述べていたところをみると、本番で良い化学反応が起きたことで、本人としてもいつにも増して良い演奏ができた手応えがあったのだろうと感じられた。コンクールというのは、こうして緊張とアドレナリンを味方につけ、特別な演奏ができた人が成功を手にするのだと改めて感じる一場面だった。

2日目の最初に演奏したキム・ジョンファン(ドイツ/25歳)は、演奏機会の少ないサン=サーンスのピアノ協奏曲第4番を選択。物憂げに始まり、一気にドラマティックに展開させるコントラストの付け方、一人で何役もこなすかのような多彩な表情で、作品の魅力を存分に伝えてくれる。オーケストラとの掛け合いも楽しんでおり、それによりステージ上の全員がどんどんのっていくように見えて、「この曲を演奏するのは初めて」というのが信じられないほどだった。結果は第2位、併せて最優秀室内楽演奏者賞、最優秀委嘱作品演奏者賞も受賞した。
表彰式の直後、ロビーに貼り出された審査員の採点表によれば、1位と2位は、10人の審査員の合計点がわずか4点差と、僅差だったようだ。異なるタイプの実力が伯仲する結果となったといえる。

最後の奏者となったのは、ハ・ギュテ(韓国/29歳)。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番という選曲は、彼の繊細な音と精巧な音楽作りによく似合っていた。一方で、演奏順の都合もあり、直前のサン=サーンスのようなレパートリーと比較しなくてはならない難しさも感じるところがあった。
自分の表現を信じて静かに音楽を積み重ねるピアニストという好印象を残したが、結果は第5位となった。
優勝したフェディウルコが評価された理由について、青柳審査員長は、オーケストラとのコミュニケーションがうまくとれていたこと、一つのコンサートのように感じさせたことを挙げていたが、それは今回上位3位に入ったファイナリストに特に共通していたポイントだったように思う。加えて彼らは、ピアノから自分の音を引き出し、大きなホールに通らせる能力も持ち合わせていた。
6回目となった高松国際ピアノコンクールは、5つのコンチェルトが5つの個性を際立たせたファイナルで締めくくられた。入賞者たちの今後の活躍を楽しみに見守りたい。
◎第6回高松国際ピアノコンクール 最終結果
第1位 ロマン・フェディウルコ Roman FEDIURKO(ウクライナ)21歳 KAWAI
第2位 キム・ジョンファン KIM Jeonghwan(ドイツ)25歳 KAWAI
第3位 エリザベス・ツァイ Elisabeth TSAI(アメリカ)26歳 STEINWAY&SONS
第4位 パク・ヘリム PARK Haerim(韓国)19歳 YAMAHA
第5位 ハ・ギュテ HA Gyu Tae(韓国)29歳 YAMAHA
※末尾は使用楽器
最優秀室内楽演奏者賞 キム・ジョンファン KIM Jeonghwan
最優秀委嘱作品演奏者賞 キム・ジョンファン KIM Jeonghwan
高松国際ピアノコンクール
Takamatsu International Piano Competition
https://www.tipc.jp

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/



