ぶらあぼブラス!Vol.46 小平市立小平第三中学校吹奏楽部(東京都)
5年連続の全国大会金賞。その秘密は「ソロ」にあり!

取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)

普通の生徒たちが全国大会で輝く

 東京の小平市立小平第三中学校吹奏楽部は、実に驚くべきバンドだ。中1を含む全部員で参加している吹奏楽コンクールでは、2025年まで5年連続で全国大会金賞(いわゆる「五金」)を達成。全日本アンサンブルコンテストも全国大会常連だ。そのサウンドや技術力は、多くのプロや指導者から高い評価を受けている。

 顧問の澤矢康宏先生は「部員のほとんどは中学から楽器を始めます」と言う。もちろん、所属するのは学区で生活するごく普通の子どもたちだ。

 では、なぜ小平三中の部員たちは短期間で力を伸ばし、ハイレベルな演奏を実現できるのだろうか?

 実は秘密がある。例年11月から1月まで、小平三中ではソロ演奏に取り組んでいるのだ。

 澤矢先生はこう語る。

「アンサンブルコンテストに参加するメンバーはアンサンブルもしますが、基本的に基礎合奏以外はそれぞれがソロの練習をする期間なんです」

澤矢康宏先生

 小平三中では日本ジュニア管打楽器コンクール・ソロ部門、全日本中学生・高校生管打楽器ソロコンテスト、全日本学生国際ソロコンクールという3つのソロコンテストに挑んでいる。出場は任意だが、大多数の部員が大会に挑戦しているという。それ以外に、部内でのソロ発表会もある。

 澤矢先生は言う。

「ソロコンに出るのは、賞を取るためではありません。音楽性の高い曲に取り組むことで、吹奏楽ではなかなか触れられない作曲家の音楽を知り、個人の技術と表現力を高めるためなんです」

 古典から現代音楽まで、優れた作曲家たちのソロ作品に挑戦し、「個」を高めることが、全国トップレベルのバンド力の礎になるのだ。

アンサンブルでもみんなを引っ張る原動力に

 小平三中の部員たちは、ソロ演奏をどう感じ、どう取り組んできたのだろうか。

 今年度の部長でフルート担当の大迫真尋(3年)は、昨年度、フランク・マルタン《バラード》でソロコンに挑戦。全日本学生国際ソロコンクールで最優秀賞と審査員特別賞に輝いた。また、全日本中学生・高校生管打楽器ソロコンテストでは関東甲信越大会まで進出し、優秀賞を受賞した。

「私は1年生のときからソロコンに参加してきました。2つ上の姉も出ていましたし、歴代の先輩たちのソロも見ていて、『この曲、私も吹いてみたいな』『自分の力がソロでどこまで通用するのか知りたいな』という思いがあって挑戦することにしたんです」

大迫真尋さん

 実際にやってみると、その難しさを知った。

「みんなで合奏するときは譜面どおりに吹くのでいっぱいいっぱいでしたが、ソロは自分ひとりだけ。すべて見られてしまいます」

 そのため、真尋は「いい音を鳴らす方法や響かせ方」などを自分なりに研究したという。

「ソロのおかげで技術も上がり、吹き方のバリエーションを増やすこともできました」

 2年生になって再びソロコンに挑むと、新たな発見があった。

「ソロの練習では『もっとこう吹きたい』という思いが強くなり、掘れば掘るほど楽しくなりました」

 ソロやアンサンブルで経験を重ね、度胸がついたと思っていたという真尋。しかし、中2のソロコンでは極度の緊張に苛まれた。そんな中でも、自身の成長を感じることになった。

「ステージに出るとき、『怖い!』と思ってしまい、自分では力を全然発揮できなかったと落ちこみました。でも、親や友だちは『自信を持って堂々と演奏してるように見えたよ』と言ってくれて。練習が体にしみ込んでいたからかな、と思えるようになりました」

 ソロコンを通じてたくましさや演奏力を高めた真尋。今年3月の全日本アンサンブルコンテストには管打8重奏チームのメンバーとして出場し、銀賞を受賞した。

「全国大会のときは私のソロから曲が始まるので、緊張はしましたが、『絶対にみんなを引っ張っていくぞ!』という思いで演奏しました。少し余裕も感じ、広い視野で演奏できました」

 フルート奏者としても人間としても成長した真尋はいま、小平三中のリーダーとして、部全体をまとめる存在になっている。

生活や勉強にも応用できる力がついた

 副部長でアルトサックス担当の野本杏珠(3年)は、ソロでイダ・ゴドコフスキーの《ブリランス》を演奏。全日本学生国際ソロコンクールでは最優秀賞・東京新聞賞を受賞し、全日本中学生・高校生管打楽器ソロコンテストでは全国大会に出場した。

「もともと吹奏楽部と美術部のどちらに入るか迷っていたくらいで、全国レベルの吹部でついていけるか不安がありました」

 入部すると杏珠はめきめきと力をつけ、中1で全日本吹奏楽コンクールと全日本アンサンブルコンテストのダブル金賞に貢献した。

 中1のときはアンサンブルに専念するため、ソロコンテストには参加していなかったが、杏珠はこんなことを感じていた。

「ほかの子たちがソロで連符(速いパッセージ)などにチャレンジしているのを聴いて、『差をつけられちゃうんじゃないか』と不安になったのを覚えています」

野本杏珠さん

 中2でも杏珠は真尋たちとともに全日本アンサンブルコンテストに出場しているが、その一方で初めてソロコンにも挑んだ。

「最初は不安が大きかったです。コーチからアドバイスはもらえますが、普段は自分だけで課題を見つけていかないといけないので」

 だが、そんな中でも杏珠は成長していった。

「やっていくうちに、課題とその改善策や練習方法を自分で見つけられるようになりました。思うように表現できるということや、得意な音域を見つけられるなど、ソロのいいところにも気づけました」

 杏珠は《ブリランス》という曲に自分なりのイメージを結びつけて演奏したという。それは自分の特性を活かすことにもつながった。

「もともと、曲の情景をイメージするのが得意だったんです。ソロでも、たとえば《ブリランス》だったら、冒頭の暗い感じのところは『人間不信でどうしたらいいのかわからず、さまよっている感じ』と想像しながら演奏していました」

 音楽への想像力が豊かな表現につながった。そして、ソロコンでの経験は杏珠に音楽を超えた気づきを与えてくれた。

「自分の課題と改善策を見つけられるというのは、今後の生活や勉強などにも応用できることだと思っています」

低音楽器でも堂々とソロが吹ける!

 バリトンサックス担当の井口結彩(ゆあ)(3年)は、ソロでジュール・ドゥメルスマンの《ファンタジー》に挑戦。全日本学生国際ソロコンクールでは優秀賞を受賞。全日本中学生・高校生管打楽器ソロコンテストでは全国大会に出場し、審査員特別賞を受賞した。

 結彩も中1、中2で全日本アンサンブルコンテストに出場しており、ソロは2年生からの挑戦だった。

「私はポジティブで明るい性格ですが、バリサクは低音楽器なので普段からソロがほとんどなく、全部ひとりで吹くとなると恥ずかしく感じてしまいました」

 それでも、中1の冬に耳にしたソロに取り組む部員たちの音に刺激を受けたことがモチベーションにつながった。

「私たちがアンサンブルを練習しているときにソロの音が聞こえてきて、『え、うまくね? やばい、ソロの子たちに置いていかれちゃうかも!』と焦ったし、負けられないと燃えました」

井口結彩さん

 中2からソロ演奏を始めてみると、低音楽器ならではの苦労とともに、演奏の楽しさを新たに発見したと結彩は語る。
「《ファンタジー》はもともとアルトサックスのための曲。経験のない速いパッセージに指が絡まったり、テンポが転んだりと苦労しました。でも、自分なりに練習を工夫し、克服することができました。よかったのは自分の音がきれいになって『おお、カッコいい!』と思えたこと。パッセージが続いて息が苦しくなり、その後にやっとブレスできた瞬間の何とも言えない快感もクセになりました」

 結彩はソロコンで心も強くなったという。

「ステージでは本当に心細かったけど、ミスをしてもなんとかやりきれたし、本番を重ねるにつれて手汗をこっそり拭くことも覚えました。失敗を引きずらず、『もう終わったことだから』と切り替えられるようにもなりました。もし、今年のコンクール曲にバリサクのソロや目立つところがあっても、堂々と吹けると思います!」

 小平三中の部員たちが掲げる今年度の目標は「全日本吹奏楽コンクール金賞」。真尋や杏珠、結彩を中心に、鍛え上げられた個人技で頂点を目指す。

小平三中の「秘伝」を全国へ

 ソロ演奏への取り組みは、個人の音楽性を伸ばすだけにとどまらない。澤矢先生はこう語る。

「責任感が強くなりますね。ソロでは、ステージに出ると誰も頼ることができません。そこで生まれた『自分だけで立ち向かわなければいけない』という思いが、合奏にも、日ごろの生活にも現れます。ソロによって人間的にも大きく成長するということだと思います」

 大人数で演奏する吹奏楽ではともすると一人ひとりの「責任」の意識が低くなりがちだ。しかし、ソロで責任感が育まれると、全体での合奏は部員数の足し算ではなく、掛け算で高まる。

 ソロ演奏を通じ、部を運営する力、行動の意識、合奏力、コミュニケーション能力、リーダーシップまでが伸びると澤矢先生は言う。

 確かに、インタビューをしていても、中学生でここまで自分自身のことを客観的に把握し、豊富な語彙で表現できるケースはそう多くないと感じた。これもまたソロの効能かもしれない。

「本当は、ソロがうちの演奏力の源になっていることは『秘密』にしておきたかったんです」と澤矢先生は笑う。「でも、いまの時代、どこの中学校も地域移行や練習時間の制限などで苦労されているでしょう。小平三中の例が少しでも皆さんのお力になれば嬉しいです」

 もしかしたら、小平三中の「秘密」は悩める各地の中学校にとって「福音」となるかもしれない。


『吹部ノート —12分間の青春—』
オザワ部長 著
ワニブックス

⬇️⬇️⬇️これから開催される“吹奏楽”の公演を「ぶらあぼコンサート検索」でチェック⬇️⬇️⬇️


オザワ部長 Ozawa Bucho(吹奏楽作家)

世界でただひとりの吹奏楽作家。
ノンフィクション書籍『とびたて!みんなのドラゴン 難病ALSの先生と日明小合唱部の冒険』が第71回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出。ほか、おもな著書に小説『空とラッパと小倉トースト』、深作健太演出で舞台化された『吹奏楽部バンザイ!! コロナに負けない』、テレビでも特集された『旭川商業高校吹奏楽部のキセキ 熱血先生と部員たちの「夜明け」』、人気シリーズ最新作『吹部ノート 12分間の青春』など。