響ホール開館30周年記念 ガラ・コンサート&まるっとEnjoy! 響ホールで夏休み 公演当日の様子をレポート!

 真っ青な空に入道雲が映える盛夏。

 八幡駅の改札を出て、響ホールへ向かう道すがら。空を見上げると開館30周年記念の街路灯フラッグが目に入った。同ホールが北九州の地にうまれて30年。まちをあげてその節目を祝うあたたかな気持ちを感じつつ、ホールへ続く坂道を登った。

写真提供:北九州市立響ホール

 北九州市立響ホールでは7月29日・30日の2日間にわたって、 まるっとEnjoy! 響ホールで夏休み(29日)と響ホール開館30周年記念 ガラ・コンサート(30日)が開催された。両公演では、NHK交響楽団特別コンサートマスターである篠崎史紀をはじめとする北九州市出身の演奏家や同ホールにゆかりのあるアーティストが、今回限りのオリジナル記念合奏団を編成し、来場者とともに「音楽」でホール開館30周年を寿いだ。

子どもから大人まで、大賑わいの30周年スペシャルイベント

 「まるっとEnjoy! 響ホールで夏休み」では、来場者はホールに一歩足を踏み入れた瞬間から、誕生日パーティーに招待されたようなワクワクした雰囲気に包まれたことだろう。ホール職員手作りの誕生日ケーキのオブジェがホワイエに設置され、頭上からはこちらも手作りの小鳥のモビールが垂らされている。来場者はディスプレイとともに写真を撮り、知り合いとおしゃべりし、それぞれ歓談を楽しんでいた。

ホール職員手作りの誕生日ケーキのオブジェ

 本公演では、出演者の演奏を客席で聴く通常のコンサート様式に加え、建物内を巡りながら音楽を体験的に楽しむことができる催しが用意されており、その名の通り、響ホールを「まるっと」楽しめる内容となっていた。例にもれず本コンサートも新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、参加体験型コーナーを見送っていたが、今年は4年ぶりに開催。それぞれのコーナーが、開演前・休憩中・終演後といずれのタイミングでも盛況を博していた。

「聴く」だけではない「見る」「触れる」催しも

 「楽器体験コーナー」では、分数ヴァイオリンや分数チェロなど、さまざまな大きさの弦楽器が子どもたちを迎えた。つややかに輝く楽器へ好奇心を隠しきれない様子で、待ちに待った自分の番がくると、繰り返し弓を上げ下げしながら、自ら奏でた音色に熱心に耳を傾けていた。

分数ヴァイオリン・分数チェロ
楽器体験コーナーの様子

 また、大人たちも不思議そうな顔で囲んでいたのは、テーブルに置かれたワイングラスに水が入っているだけのシンプルな設え。グラスハープの体験コーナーだ。来場者は戸惑いつつもグラスの縁にそって濡れた指をすべらせ、ふとした瞬間に響く少し硬質な澄んだ音に耳をすませた。

グラスハープの体験コーナー

 そして、休憩時間中にはステージが開放され、「楽器見学」が開催された。同ホール所有のフルコンサートグランドピアノやハープ、チェンバロが登場し、来場者もステージにあがって間近に見学することができる基本構成は、本コンサートが始まった2014年から変わらない。来場者は、ステージ上で通常のコンサートさながらに設置された楽器たちを囲みつつ、それが奏でるであろう音色に、想像を巡らせていた。

楽器見学の様子

 ハープとチェンバロはともに、響ホール開館時に寄贈されたもの。コンサートで使用するだけでなく、「市民の皆様にも触れてもらいたい」という思いから、チェンバロ教室ハープ研究会を開講している。

豪華アーティストによる響ホールだけの特別プログラム

 さらに今回は、コンサート様式のプログラムにも趣向が凝らされていた。コンサートは2部構成になっており、第1部では小林壱成(ヴァイオリン)ら出演者による演奏と楽器紹介がおこなわれた。また、抽選で選ばれ、前日28日に篠崎による公開レッスンを受講した5歳と6歳の篠崎曰く小さな演奏家の“お友だち”が、その成果をステージ上で披露した。第2部では、オーディションで選ばれた中学1年生の“お友だち”と響ホール開館30周年記念合奏団が共演し、時に篠崎の即興的な音の装飾に、即興で応えるなど、華やかな響ホールデビューを果たした。

 30日の「ガラ・コンサート」では、ホールの各所が花束で彩られ、設えがより大人びたものに変わった。

 本コンサートは、2007年の「北九州国際音楽祭20周年記念ガラ・コンサート」や、12年の「スーパー・オーケストラ」(同音楽祭)、13年の「市制50周年記念事業プレミアム ガラ・コンサート」、「まるっとEnjoy! 響ホールで夏休み」と同年(14年)に始まった「マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ(Maroオケ)」などの流れを汲み、これらで共演した演奏者たちの一部が再結集したものである。すなわちこの公演は、北九州市で縁を紡いだアーティストらの再会の場であり、里帰りコンサートでもあった。気の置けない間柄のアーティストたちによる、アドリブを交えたトークや、演奏中の一挙一動、その表情の移り変わりからは、演奏者同士の遊び心と信頼感が窺えた。まるでお盆休みにふるさとへ帰省し、同郷の友と語らうかのような音楽による対話は、ステージ上だけでなく客席をも終始リラックスした穏やかな空気で包み込んだ。

人と人がつながり、芸術文化を育む

 両コンサートを通して何より印象的だったのは、多種多様な関係の親密さであり、それらの土壌となる「響ホール」の姿だった。

 北九州市で縁を育んだ演奏家たちの和気あいあいとした雰囲気。第一線で活躍する演奏家と“お友だち”による音楽を通じた多世代間交流。参加体験型コーナーやホール所有の楽器を介したホールと市民の出会い。そして、音楽を通して響ホールに集う“演奏者”と“聴衆”の境界を越えた人々の語らい。

 地域において芸術文化が涵養されるにあたり、文化施設はそれをとりまく人々の重要なプラットフォームとなる。響ホールという文化施設が音楽の面からその一端を担ってきたのは言うまでもない。かつて鉄鋼のまちとして栄えながらも「文化不毛の地」と揶揄された北九州は、今や音楽をはじめとして、文学、美術、演劇そして映画と、さまざまな芸術文化活動で溢れている。

 今年、市制60周年を迎えた北九州市は「みらいつなぐ北九州」というキャッチフレーズを掲げている。市民そして演奏家によってこれからも紡がれる響ホールの「郷(ふるさと)の音」。そのみらいに胸が膨らむ。

写真・取材・文:槇原彩

【Information】
北九州市立 響ホール
https://www.hibiki-hall.jp