
右:中原梨衣紗 ©Ayako Yamamoto
17歳の新星ヴァイオリニスト、中原梨衣紗が新日本フィルとともに新シリーズ「中原梨衣紗と巨匠たち」を始動する。
10歳で全日本学生音楽コンクール(小学校の部)第1位、11歳でドイツのクロスターシェーンタール国際ヴァイオリンコンクール(14歳以下の部)第1位、2024年日本音楽コンクール第2位の俊才である。
新日本フィルは2025年3月の初共演以来、彼女の成長を温かく見守り、長期的な視点で音楽家としての歩みを支えてきた。本シリーズはその延長にあり、国内外の巨匠との年1回の共演を通じて、中原が段階的に成熟していく姿を描く構想だ。
第1回は、大阪フィル桂冠指揮者・大植英次を迎える。バーンスタインの薫陶を受け、ミネソタ管音楽監督時代にグラミー賞を受賞、バイロイト音楽祭《トリスタンとイゾルデ》でも世界の注目を浴びた、日本を代表するマエストロである。
筆者はこれまで何度も中原の演奏に接してきたが、難技巧を美音でいとも自然に奏で、それらを音楽の流れの中に溶け込ませる成熟した演奏に、ただ聴き入るばかりだった。若さの中に巨匠的な落ち着きを備えた、大器の片鱗を感じさせるヴァイオリニストである。
シベリウスのヴァイオリン協奏曲では、大植の緻密な構築と燃える情熱に、中原の完璧な技術と抒情性が呼応し、雄大で幻想的な音楽世界が広がるだろう。ベートーヴェン「英雄」では、大植の構築的で推進力に満ちた指揮が、主題の展開を鮮やかに描き出す。若き魂と巨匠の精神が響き合うこの公演は、未来を担うアーティストの新たな旅立ちとなるに違いない。
文:長谷川京介
(ぶらあぼ2025年12月号より)
新日本フィルハーモニー交響楽団
中原梨衣紗と巨匠たち vol.1 大植英次 × 中原梨衣紗
2026.3/3(火)19:00 すみだトリフォニーホール
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815
https://www.njp.or.jp

長谷川京介 Kyosuke Hasegawa
ソニー・ミュージックにてクラシックCDの企画・制作を担当するプロデューサーとして勤務。
退職後は音楽評論家として活動し、「ぶらあぼ」「音楽の友」「毎日クラシックナビ・速リポ」などにコンサート評や記事を執筆。
コンサート・プログラムやCD解説の執筆も手がける。
ミュージック・ペンクラブ音楽賞選考委員。個人ブログ「ベイのコンサート日記」は年間40万回を超えるアクセスを集めている。



