トップオーケストラの音楽家たちはいったいどんな話をしているのだろう? 「ぶらあぼONLINE」特別企画としてスタートした「オーケストラの楽屋から」、今回は東京交響楽団の登場です。ゲストとしてお集まりいただいたのは、コンサートマスターの水谷晃さん、小林壱成さん、ヴィオラの青木篤子さん、クラリネットの近藤千花子さん、ホルンの大野雄太さんの豪華5名。様々な公演を重ねることで生まれてくるオーケストラ奏者と指揮者の信頼関係。今回のお話では、東響メンバーが印象的だったノット監督公演でのエピソードを中心に、彼の魅力やオーケストラとの関係性についての会話をお届けします。
オーケストラの楽屋から
普段なかなか見ることのできないアーティストの素顔や生の声、意外な一面などを紹介していきます。音楽家としてだけでなく、“人”としての魅力をクローズアップし、クラシック音楽をより身近に、そして深く楽しんでもらいたい、そんな思いを込めたコーナーです。
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vol.1 ノット監督は名映画監督!?
第701回定期演奏会
2022.7/16(土)18:00 サントリーホール
指揮:ジョナサン・ノット
ソリスト:ユリア・クライター
ラヴェル:海原の小舟(管弦楽版)—鏡より
ベルク:七つの初期の歌
マーラー:交響曲 第5番 嬰ハ短調
—— 7月定期演奏会のリハーサルを終えて
水谷 ハードですね…。
小林 ハード…。
水谷 初日にノット監督と対面したときから、入れ込んでる感じというか。
小林 そうそう。最初監督怒ってるのかと思って(笑)
青木 でもやりやすいよ。ノット監督の音楽がもうそこにあるから。
水谷 ストーリーがはっきりしてるしね。
青木 そう、だから見えたまま弾くって感じ。5楽章終わった後も、超ハッピーだったよね。
水谷 そうね。7番よりストーリーがはっきり見えるよね。
青木 7番はね、ダークなところが結構あるけど。5番は、ある意味でわかりやすくて凄くいい。
近藤 ノット監督は、映像でイメージができてる。棺の上にお花があって。カメラワークが、棺を運んでる人にいってとか映像のイメージをはっきり私たちに伝えてたね!
水谷 花にフォーカスがいって。彼は映画監督やってもいい映画作るんだろうなって。
青木 彼は絶対監督タイプ。なんでも仕切れるタイプですよ。
水谷 ノット監督のプログラミングのテーマによく出てくるのが、生と死だと思うんだけれども。今回もタイミング的に、それを感じずにはいられないような時に、このプログラムをやるってことにやっぱり意味があって。生演奏で何を演奏するか、何をお客さんと共有するかってことの大切さがあるような気がします。ノット監督とのマーラーは初めて?
小林 初めて。
水谷 どんな感じ?
小林 これまでマーラー以外のデュティユーとか近現代ものを一緒にやる機会が多くて。マーラーがすごく好きなんだろうなっていうのはめっちゃ感じたんですけど、僕のノット監督の印象って、曲によって準備してくるスタンスが違うっていうか。今回も最初、「え、怒ってんのかな?」から始まったじゃないですか。基本的にそのスタンスが1番多いとは思うけど、ちゃんと使い分けられる。
青木 ほんと監督はプログラムによって人が変わるよ。
水谷 中身が変わってるね。
青木 たぶんね、来週はね、別人になってる(笑)
小林 ジャズだから(笑)
青木 監督、ジャズ好きなんだよねえ。
水谷 好きね。前もジャズの難しいのやったよねー
青木 来週もやばいよ、超難しい。
大野 今回、フォルテに注力してるっていうところが、僕の中ではすごく驚きだったんですよね。それこそリヒャルト・シュトラウス。あの、Heldenleben(英雄の生涯)やった時には、割と流す音楽だったんですけども、今回は打点「ダダダダン」いう、リズムに注力するっていうのが、僕は意外で。「タタタタン」って多分来るんだろうなと思ってた。
一同 あー。
小林 俺も思ってた。
大野 「ダダダダン!! 」ってすごいインパクト。
水谷 今までの感じが体に染みついてるから、行きたくなっちゃうのを無理やり止める感じがあるよ。
大野 そう。で久々に、「あ、そうか5番だな」って思って、ベートーヴェンのこととか色々考えたりとか。
小林 そうですよね。
大野 ノット監督が選択することで、曲への印象がガラリと変わって。ただ今回最初に、1楽章の「ダダダダン」を彼が明確に見せたことによって、我々の曲に対する重さも変わったなと思って。あの一瞬は面白かったですね。
水谷 いつも思うのは、集中力を切らさずに、でも加減してないと最後までたどり着けないよね(笑)。フォルティッシモなんだけど、少しきつくならないために抜いておいてとかいう指示があったじゃん?でも、目からの情報があまりにもすごいから、それに引っ張られちゃいがちなんだよね。
一同 うんうん。
水谷 すごく情熱的な部分と、それと同じくらいの知的さを持ってらっしゃって。それと同じような部分を(我々にも)求められるよね。ものすごく情熱的なんだけどすごくクレバーで、こちらも付いていかないとノット監督と一緒の道筋にはたどり着けない、ゴールにはたどり着けないっていう感じがするよね。
近藤 でも、基本的に信頼してくれている感じがするから。あとはもうそれぞれの解釈でやってくださいって、すごく感じる。
水谷 その時その時で上手くとってくれてね。
近藤 そうそう。あとは自分たちでやって、て。
青木 それでこっちが困っていることを瞬時に見抜くから。
小林 すごいね。
水谷 やっぱり僕ら音に出るもんね。出ちゃうというか。
青木 不安とか、出ちゃうから(笑)
大野 逆に監督は、僕らがそれを出さないと怒るでしよ。
一同 (笑)
水谷 ネクストストーリーって、いつも言ってね。だけど、そのストーリーはこうだよって具体的に言ってくれて。やっぱりそれだけで音が変わるもんね。千花子ちゃん(近藤)は昔ボレロやった時はいた?ものすごい、涙が出るほど感動するボレロ。
近藤 いやー、ほんとに。ちょっと衝撃的なボレロだった。あのaとbの旋律がいつものaとbじゃない。なんていうのかな。音の中の空気とか、とにかく動かないと怒るじゃないですか。
水谷・大野 うんうん。
青木 自然なダンスなんだよね。
近藤 そうそう!
青木 それでとても色気があって、最初のあの相澤さん(フルート首席の相澤政宏さん)のところに、「なんか優等生すぎるんだよねって、もうちょっとこうさ、タバコ吸って、不良っぽくやってよ」って言って。
水谷 へー。
青木 それで相澤さんがそうやってるのを想像して。
一同 (笑)
青木 相澤さんが「俺だって、昔はタバコ吸ってたんだよ」って。
一同 (笑)
水谷 監督センスがいいよね。
青木 そう!
水谷 前にサマーミューザでジャズの組曲をやった時もさ、これはジャズのこういうスイングで。
青木 すっごい良いレコードを、毎日絶対聴いてるなって。
水谷 ほんとにいい音楽を、いつも好奇心を持って聴いてる。
近藤 ノットさんの歌うマーラーのフレーズ、音色が多彩で彼のイメージが本当に伝わる。
大野 もうすごいよね。
水谷 すごいね。もうそれしかないみたいなピンポイントをついてくる感じ、悔しいんだよな。
青木 自作の歌詞載せて歌うしね。
大野 そう、今日も面白い歌詞だったね。なんとかドンキーとか言ってたね(笑)。
青木 昨日の面白い話はなんだっけ?
水谷 マーラーって、奥さんも作曲の才能あったのに筆降ろさせて、俺に尽くせみたいな。
近藤 そうそう。一曲だけ作って。
水谷 すごく亭主関白みたいな感じだけど、同時にものすごく繊細な人だったから、それに対して、いつも懺悔の気持ちがあって、それをこれに託した、というふうに読んでるという。
青木 なるほど。
水谷 ストーリーの中で生きてるからこそ、あんな楽しく音楽を届けるわけだし、こちらも乗せられちゃうし。
青木 だから、それこそ(監督と)オペラをやれるって幸せね。
(vol.2へつづく)
水谷晃 Akira Mizutani
大分市生まれ。桐朋学園大学を首席で卒業。ヴァイオリンを小林健次氏、室内楽を原田幸一郎・毛利伯郎の各氏と東京クヮルテットに師事。
在学中Verus String Quartetを結成し松尾学術振興財団より助成を受け、イェール大学夏期アカデミー・ノーフォーク室内楽フェスティバルに参加。その後、第57回ミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門で第三位入賞。
2010年4月より国内最年少のコンサートマスターとして群馬交響楽団コンサートマスターに就任。2012年、同団での活躍が評価され、第9回上毛芸術文化賞を受賞。2013年4月より東京交響楽団コンサートマスター。2018年6月よりオーケストラアンサンブル金沢客員コンサートマスターを兼任。
桐朋学園大学非常勤講師。
小林壱成 Issey Kobayashi
1994年⽣まれ。東京藝術⼤学卒業。同⼤学院を経てドイツ・ベルリン芸術⼤学 ⼤学院修⼠課程修了。Gyarfas Competition (ベルリン)最⾼位受賞、在学中、 Symphonieorchster der UDK Berlin のコンサートマスターとしてヨーロッパ各国で演奏。幼少より篠崎史紀監督の⻘少年オーケストラ TJOSで活動し藝⼤にて師事。ドイツにてProf. M. Contzen、バイエルン放送響第1コンサートマスターA. Barakhovskyに学ぶ。また室内楽をアルテミス・カルテットに学ぶ。⻘⼭⾳楽賞新⼈賞、⽇本⾳楽コンクール他受賞多数。国内外の⾳楽祭出演はじめ、ヴェンゲーロフ、レーピン等著名⾳楽家と共演を重ねる他、各楽団のゲスト・コンサートマスターとして活躍。2017 より銀座王⼦ホールレジデント「ステラ・トリオ」メンバーとしての活動を開始。2021年4月より東京交響楽団コンサートマスター。
青木篤子 Atsuko Aoki
桐朋学園大学、同大学研究科を経て、洗足学園音楽大学ソリストコースにて学ぶ。ヴァイオリンを藤井たみ子、東儀幸、原田幸一郎の各氏に、ヴィオラを岡田伸夫氏に師事。第15回宝塚ベガ音楽コンクール、第2回名古屋国際音楽コンクール、第2回東京音楽コンクールにて、それぞれ第1位を受賞。倉敷音楽祭、ヴィオラスペース、サイトウキネンフェスティバル、東京のオペラの森等に出演。これまでにソリストとして東京交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団と共演している他、2012年にはオペラシティ主催リサイタルシリーズ「B→C」に出演。またヴェーラ弦楽四重奏団メンバーとしてベートーヴェンの弦楽四重奏ツィクルスに取り組むなど、室内楽の分野でも幅広く活動している。
近藤千花子 Chikako Kondo
東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、2005年東京芸術大学音楽学部を首席卒業。安宅賞、アカンサス音楽賞受賞。第78回日本音楽コンクール第2位。第22回日本木管コンクール第1位、聴衆賞。これまでにクラリネットを磯部周平、山本正治、村井祐児の各氏に師事。2013年アフィニス文化財団海外研修員として英国王立音楽院修士課程修了。在学中、クラリネットをクリス・リチャーズ、エスクラリネットをチーユー・モーに師事。ロンドン交響楽団に客演。
ブリティッシュスクールinTokyo、ドルチェアカデミー、ミュージックスクールDa Capo、洗足音楽大学、昭和音楽大学非常勤講師。東京交響楽団クラリネット奏者。
大野雄太 Yuta Ohno
山形県出身。山形大学教育学部卒業後に上京。東京藝術大学大学院在学中に新日本フィルハーモニー交響楽団入団。2011年東京交響楽団へ首席奏者として移籍。国内主要コンクールにおいて1位受賞などソリストとしても活躍。
「ホルンで奏でる紅白歌合戦」で全国各地にて公演を重ね、東日本大震災での慰問演奏などチャリティー活動にも力を入れている。日本ホルン協会常任理事。洗足学園音楽大学、東海大学講師。2児の父。PROWiND023、ナチュラルホルン東京メンバー。
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