
ピアニストの亀井聖矢が、ベルリン・フィルの公認アンサンブル「フィルハーモニー・カメラータ・ベルリン」の初来日ツアーで、ソリストとして新たなチャレンジをする。演奏するのは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番。加えて、自作のピアノと弦楽のための作品の世界初演にも挑むことになった。
「少しずつ作曲に力を入れているところですが、これまでで最大の編成はピアノ・トリオ。そんななか、初めて書く最大編成の曲、それも12名の弦楽器とピアノというあまり聴いたことのない編成の曲をいきなりベルリン・フィルのメンバーと初演するのですから、かなりハラハラする挑戦になります(笑)。作品には、こだわって自信を持っている部分もありますが、響きを想像して書くしかないぶん迷いの残る部分もあるので、そこは優れた奏者のみなさんから意見をもらって、学び、考える材料にしていきたいです。いつかピアノ協奏曲を書くという夢に向けて、こういう機会が成長させてくれるのでしょうね。最近はオーケストレーションの勉強、シェーンベルクの『浄夜』やブラームスのピアノ五重奏曲など弦楽中心の作品の研究にも取り組んでいます」
同編成用にアレンジされるピアノ協奏曲第3番の前に置くため、序曲のような要素を持たせるという。
「3番の協奏曲はベートーヴェンが“ハイリゲンシュタットの遺書”を書いた少し後に完成させた作品。苦難や大きな壁を自分の意志で乗り越え、希望を見つけるという流れを軸に、構造としては比較的かっちりとした古典的なものを考えています。重苦しい第一主題で始まり、第二主題で天から聞こえる救いの声のような響きを入れ、それを混ぜ合わせながら再現部で確信を強め、最後は複雑な響きの後に美しいハ長調のハーモニーに到達する流れを設計しています。そこから力強いハ短調の3番に入れたらいいなと」
一方、ベートーヴェンの協奏曲を演奏するのは、「皇帝」に続いて今年2作目となる。
「堂々と思う存分音を鳴らして音楽を構築する表現が合う作品で、繊細な部分にも芯があります。不安定な揺らぎも自分の意思の範囲で幅を作れるので、弾いていて快適なのです。思うように体を動かし、指先に意志を伝えて表現すると、ベートーヴェンが求めていたことに近いであろうものが出力されていると感じられます。
2楽章については、ゆったりした流れのなかで表現を積み重ね主張することを、難しいと感じる部分もありますが、本番に向けて説得力のある演奏ができるよう、さらに詰めていきたいです」
コンクールに挑戦する時期を終え、次の道を模索する中で訪れた名手たちとの共演の機会となる。
「リハーサルから本番までの流れがすごく楽しみなんです。自分の音楽を持ちながら、メンバーの音や息遣いを敏感にキャッチして、自在に反応できる余裕のある状態で臨みたいですね」
俊英が新しい大きな一歩を踏み出す舞台を見届けよう!
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2026年8月号より)
フィルハーモニー・カメラータ・ベルリン&亀井聖矢
2026.9/15(火)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
9/20(日)14:00 横浜みなとみらいホール
9/24(木)19:00 サントリーホール
問 テンポプリモ03-3524-1221
https://tempoprimo.co.jp
他公演
9/17(木) 札幌コンサートホール Kitara(011-520-1234)
9/18(金) 東京エレクトロンホール宮城(仙台放送 事業部022-268-2174)
9/23(水・祝) 福岡シンフォニーホール(092-725-9112)
9/26(土) 大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
※公演により出演者、プログラムは異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/

