In memoriam アレクサンドル・トラーゼ

Alexander Toradze 1952-2022

 ジョージア(グルジア)出身で、国際的に活躍したピアニスト、アレクサンドル・トラーゼが5月10日、亡くなった。享年69歳。4月23日、アメリカ・ワシントン州バンクーバーでのバンクーバー交響楽団(USA)との公演中に急性心不全を起こし、体調不良のままショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番を弾き終えたあと当地の病院に入院していたが、帰らぬ人となった。

© 藤本史昭 写真提供:トッパンホール

 1952年、トビリシ生まれ。モスクワのチャイコフスキー音楽院に学び、卒業後まもなく教授も務めた。1983年にアメリカに移住。1991年からは、インディアナ大学サウスベンド校で教鞭を執るなど、教育者として多くの後進の育成にあたった。

 演奏家としては、ワレリー・ゲルギエフがしばしばソリストに起用したことで、その存在が広く知られるようになった。特に、ゲルギエフ&マリインスキー歌劇場管とのプロコフィエフのピアノ協奏曲全集(フィリップス)は、名声を決定的なものとした。強靭な打鍵から繰り出される並外れたテクニックと重量感のあるダイナミックな表現力は、とりわけショスタコーヴィチ、プロコフィエフといったロシア音楽で真価を発揮。ベルリン・フィル、ロンドン響、ニューヨーク・フィルなど世界の主要オーケストラとの共演も多く、ザルツブルク音楽祭、BBCプロムス、エディンバラ、ロッテルダムなど夏の音楽祭にもたびたび出演した。

© 藤本史昭 写真提供:トッパンホール

 日本では、NHKのテレビ番組『スーパーピアノレッスン』の講師としての顔を思い出す向きも多いだろう。プロコフィエフの第7番のソナタを汗だくになって弾いている姿が印象的だった。最後の来日は2018年。パーヴォ・ヤルヴィ指揮N響と共演(このときもショスタコーヴィチの第2番を演奏)したほか、武蔵野市民文化会館とトッパンホールでリサイタルを開催。トッパンホールでの公演では、あまりに激しすぎる演奏に、ピアノのダンパー装置が故障し、途中で演奏を中断するハプニングが発生。しかし、調律師が舞台上で修理をする間にトークを展開するなど、アクシデントをものともせず、中断したプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番(ピアノ連弾版)を弾き直して聴衆を沸かせた。

最後のステージとなったバンクーバー響とのショスタコーヴィチ