クリストフ・プレガルディエン(テノール) & ミヒャエル・ゲース(ピアノ) シューベルト~別れと旅の歌曲集

円熟を極めるリート・デュオが描き出す別離の諸相

左:クリストフ・プレガルディエン 右:ミヒャエル・ゲース
©Hermann und Clärchen Baus

 フランスの近代歌曲が「漂う薫り」なら、ドイツ・リートは「吹き抜ける風」。言葉の硬めの響きが作曲家に与えるインスピレーションも、朧げでなくはっきりとした形を呈す。だからだろうか? 生真面目な心根を有する人ほどドイツ語の歌曲に魅せられるよう。筆者自身も、背筋を伸ばして心を蘇らせたいとき、19世紀のリートを聴くことが多いのだ。

 ドイツ、ヘッセン州出身のテノール、クリストフ・プレガルディエンは、もはや大ベテランの歌い手。しかし、抒情性を保った声音を格別の覇気と共に放つとき、その歌声は、夾雑物のない引き締まった響きで鳴り渡る。この5月に、京都・青山音楽記念館 バロックザールで開くリサイタルは、名ピアニストのミヒャエル・ゲースとのお馴染みのコンビ。「別れと旅の歌曲集」と銘打って、シューベルトのリート24曲を披露するという。

 それは、齢を重ねた二人の芸術家が「別れは出会いへの第一歩。旅は新境地を心にもたらす」と感じての選曲のよう。〈歓迎と別れ〉に聴く「若々しく駆け出す姿」、〈夕映えのなかで〉の「黄昏を思わせる落ち着き」、〈とらわれの狩人の歌〉における「束縛から逃れたい男の鼓動」など、解釈に特に注目したい曲である。また、名曲〈魔王〉が含まれるのも今回のプログラミングの面白さ。ゲースのダイナミックなピアノと共に、「予期せぬ別れ」を孕むこの大曲を、いまのプレガルディエンがどう歌い上げることか。お聴き逃しなく。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2024年5月号より)

2024.5/26(日)15:00 京都/青山音楽記念館 バロックザール
問:青山音楽記念館 バロックザール075-393-0011 
https://barocksaal.com