マリオ・ブルネロ(チェロ)&アンドレア・ルケシーニ(ピアノ) ベートーヴェン チェロ・ソナタ全曲演奏会

生気に充ちたデュオで聴く楽聖の変遷

 以前ある冊子にこう書いた。「ブルネロには“歌”があり、“濃密な音”がある。その“歌”と“音”は、開放感と内密感、陽光の輝きと孤独な心象、重厚さと爽やかさが同居した“豊饒なる音楽世界”に我々を導く。生きて呼吸するその音楽は、聴く者を惹き付けて離さない」。そんな世界屈指のチェリスト、マリオ・ブルネロが、紀尾井ホールで、ベートーヴェンのチェロ・ソナタ全5曲とオペラの名旋律をテーマにした変奏曲全3曲を披露する。ブルネロは、1986年チャイコフスキー・コンクール優勝後、第一線で活躍してきた名奏者。ピアノのアンドレア・ルケシーニは、ミケランジェリ、ポリーニの後継と目される実力派だ。20年以上にわたり共演を続けるイタリア出身の二人は、互いの音楽を熟知した盟友であり、ピアノも対等なソナタの演奏にはこの上ないコンビである。
 今回はチェロの“新約聖書”たる5曲を作曲順に並べた2公演。これは実に意味深い。1番と2番は1796年、つまり初期の作で、若々しい情熱や抒情性を有している。3番は1808年の作で中期“傑作の森”の所産。明快で劇的な、同分野の最高峰だ。4番と5番は1815年に書かれた後期の入り口の作品。内省的で未来を予感させる。つまり、10曲中9曲が初期に集中しているヴァイオリン・ソナタと違って、巨匠の創作の変遷を端的に体感できるのだ。
 そしてもちろん、前記したブルネロならではの“生き生きと呼吸する”ベートーヴェンを堪能できるし、当時のウィーン音楽に潜む“イタリア的な歌”に光が当たる稀な機会ともなろう。至高のデュオで聴くこの2夜は、充実の時間が約束されている。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年10月号から)

第1夜 10/28(火)19:00 ソナタ第1番・第2番 他
第2夜 10/29(水)19:00 ソナタ第3番〜第5番 他
紀尾井ホール
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 
http://www.kioi-hall.or.jp