ユベール・スダーン(指揮) 東京交響楽団

10年の蜜月への感謝をこめて

 それは黄金時代と言っていい。ユベール・スダーンが東京交響楽団の音楽監督に就任して10年。彼は、シーズンごとにテーマを据えて多大な成果を挙げ、丁寧に磨き抜かれたアンサンブル、しなやかに呼吸する音楽で高い評価を獲得した。そしてこの3月、惜しまれつつ勇退する。
 だが彼は、5月定期に戻ってくる。この早さは楽団との佳き関係を示す稀有な例ともいえるが、当公演は音楽監督としての番外・特別編的な意味がある。なぜなら、大震災で変更された2011年3月定期の演目であるベルリオーズの「テ・デウム」が披露されるからだ。作曲者の宗教音楽を代表する同曲は、4管のオーケストラに2群の混声合唱や児童合唱(実際はともかく、指定は600人!)などを加えた巨大編成曲。エネルギッシュな面のみならず、優美な局面も魅力を放つ傑作で、声楽大曲に実績ある東響&東響コーラスの底力が存分に発揮される。他のプログラムは、スダーンの精緻な活力が生きるベルリオーズの「ローマの謝肉祭」序曲とペンデレツキの「3つの中国の歌」。後者は「李白などの漢詩に着想を得た、どこか日本的な響きも感じられる美しい曲」(楽団より)なので、こちらも楽しみだ。独唱はオーストリアのバリトン歌手、マルクス・ヴェルバ。彼は世界のトップ歌劇場の常連で、サントリーホールのホール・オペラR『ダ・ポンテ三部作』でも確かな歌唱を聴かせている。
 「テ・デウム」は、生では滅多に聴けないだけに、このチャンスを逃してはならない。そして、やり残した演目で東響とファンへの思いを遂げるスダーンに、今一度感動の拍手を送りたい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2014年2月号から)

第620回 定期演奏会★5月24日(土)・サントリーホール
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第83回 新潟定期演奏会★5月25日(日)・新潟市民芸術文化会館りゅーとぴあ
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