寺田悦子(ピアノ) & 渡邉規久雄(ピアノ)

ドイツ・ロマン派が生んだ連弾の佳品に“希望”を託して

(C)武藤 章

 幅広いレパートリーを有し、内外で独自性の高い企画の演奏会を開催して常に進化したピアニズムを届けてくれる寺田悦子と、フィンランド音楽のスペシャリストであり、国際的な演奏活動を展開する渡邉規久雄。それぞれ卓越したピアニストである二人がデュオを組むシリーズ「四手連弾の宇宙」が第2回を迎える。今回は「ドイツ・ロマン派の春」と題し、充実したプログラムを披露。厳しい状況にある現在だからこそじっくりと味わいたい、希望を感じさせる内容だ。今回核となるのはシューマンの交響曲第1番「春」の連弾版である。

寺田「昨年はオール・ベートーヴェン・プログラムで連弾の世界をお届けしましたが、この準備にあたり、私たちは非常に多くのことを考え、ピアノに向き合う時間をたくさんもつことができました。第2回のプログラムも色々と考えましたが、私たちが共に愛するシューマンを中心に取り上げ、希望を感じさせるようなコンサートにしたいと思いました」

渡邉「『春』をはじめ、シューマンの交響曲のピアノ連弾版は子どものころ父(渡邉曉雄)と一緒に弾くなど思い出のある曲でしたが、その時は他の人の編曲によるものでした。最近シューマン本人の手による編曲版があることを知り、これをぜひ弾きたい! となったのです。それまで知っていた編曲とはまったく違う音世界で、交響曲の音を忠実にピアノに移し替えているのが大きな特徴です」

 さらに今回はかねてから二人が演奏を希望していた「東洋の絵」、そしてシューマンと同時代を生きたメンデルスゾーンの連弾作品も演奏される。

寺田「メンデルスゾーンは四手連弾のための作品を数曲しか書いていないのですが、とても充実した作品です。『アンダンテと華麗なるアレグロ』はメンデルスゾーンがクララ・シューマンと音楽会で連弾し、『変奏曲』は姉ファニーとの演奏を想定して書いたといわれ、ドイツ・ロマン派時代の縮図のようなものが見えてきます」

渡邉「シューマンの作品は各パートが複雑に入り組んだ書法ですが、メンデルスゾーンの作品はそれぞれの独奏部も多く、華やかな技巧がちりばめられています。ドイツ・ロマン派の連弾作品の様々な世界をお楽しみいただけるプログラムになっていると思います」

  「春」をはじめ、力強い輝きをもった作品が並ぶ今回のリサイタルは、この困難な状況だからこそ胸に響く、希望や力を与えてくれるプログラムであり、演奏機会の希少な作品との出会いは、新たな感動や発見ももたらしてくれることだろう。
取材・文:長井進之介

寺田悦子&渡邉規久雄 デュオ・ピアノ・コンサート
四手連弾の宇宙 Ⅱ ドイツ・ロマン派の春
2021.6/26(土)14:00 紀尾井ホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
https://www.japanarts.co.jp