三浦一馬(バンドネオン)

精鋭たちとともに体現する「現代におけるピアソラ」

 今年はアストル・ピアソラの生誕100年のアニヴァーサリーということで、気鋭のバンドネオン奏者、三浦一馬にとってはいつにも増して充実した年となりそうだ。なかでも7月に浜離宮朝日ホールで開催される三浦一馬キンテートによる公演は、“これぞピアソラ!”と言うべき代表曲が目白押しのプログラムで、その魅力を十二分に味わえる。

 「キンテート(五重奏)とは、ピアソラ自身が生涯にわたって探究したバンド編成。バンドネオンはソロで演奏すると内に向かって凝縮した響きになりますが、より上と下に広がりが欲しいと思ったとき、やはりピアノやヴァイオリンは欠かせません。さらにコントラバスの強靭な低音と、中音域をとりもつエレキギターを加えた、非常にバランスのとれた編成だと言えるでしょう」

 石田泰尚(ヴァイオリン)、山田武彦(ピアノ)、髙橋洋太(コントラバス)、大坪純平(ギター)という精鋭揃いのキンテートで体現したいのは「現代におけるピアソラ」。そのためには演奏はもちろんのこと、三浦自身の手による編曲作業も重要なファクターとなってくる。

 「ピアソラのオリジナルの演奏を極力尊重しながらも、自分のフィルターを通したものを譜面に落とし込んでいく過程で、おのずと現代性は入ってくると考えています。僕にとっては演奏と同じくらい、編曲したり譜面をおこす時間は大切なもの。その作業を通してイマジネーションが芽生えて、演奏にフィードバックされることも多いです。正直なところ、演奏家として毎日ひたすら練習だけしていたら、ここまで楽しく続けてこられたかな? と思うことも。ピアソラはバンドネオン奏者としてだけでなく、作曲家として、さまざまなジャンルの音楽を融合してタンゴに革命を起こしたマルチなアーティストでしたが、僕もそういったマルチな才能に惹かれる傾向があります」

 「ブエノスアイレスの夏」「リベルタンゴ」「オブリヴィオン(忘却)」など、クラシックの演奏家によってオマージュされてきた曲も多く、ピアソラ初心者にもおすすめ。

 「とくにここ数年、自分なりのピアソラというものが見えつつあるような気がしているんですよね。だからこそ、この生誕100年という節目の年に、ぜひ新しいピアソラを聴いていただきたいなと。一度でも生で聴くと、誰しも虜になってしまう魔法のような曲がたくさんありますから、きっとのめり込むと思いますよ。本能にまで訴えかけてくるような、そんな音楽です」
取材・文:原 典子
(ぶらあぼ2021年6月号より)

アストル・ピアソラ生誕100年祭! 三浦一馬キンテート
2021.7/6(火)19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/