成田逹輝(ヴァイオリン、東京文化会館チェンバーオーケストラ第一ヴァイオリン) 
サーリアホ:オペラ《Only the Sound Remains −余韻− 》日本初演直前インタビュー

サーリアホさんは空気に色付けする魔術師ですね

成田達輝 (C)Marco Borggreve

取材・文:宮本 明

 オペラ《Onlyu the Sound Remains ー余韻ー》は独唱2人と合唱4人、オーケストラ7人(弦楽四重奏、フルート、カンテレ、打楽器)という編成の室内オペラ。第一ヴァイオリンを弾く成田達輝に聞いた。先月は『コンポージアム2021』でも大活躍するなど、同時代の作品でも評価の高い人気奏者だ。

「サーリアホさんの作品を初めて演奏したのは、まだパリに住んでいた、たぶん2013年。サーリアホさんにフォーカスした音楽祭のコンサートで、《Tocar》(スペイン語で『触れる』の意)というヴァイオリンとピアノのための7〜8分のデュオの作品を弾きました。
 技術的なことで言えば、ピアノのペダルやヴァイオリンのハーモニクスをうまく使って、まるで今回のオペラのライヴ・エレクトロニクスの効果が再現されているような作品。非常に『声』のはっきりした作曲家だなと感じていました。見えないものを描き出すという感じですかね。空気に色づけをする魔術師というのか…そういう特徴そのものが音楽になっているという印象ですね」

 作曲家のプロフィール紹介にはフランスの現代音楽の最前線とも言えるスペクトル楽派の影響なども指摘されていて、ものすごく難解な作風のように受け取られるかもしれないですが、けっしてそうではない。

「その影響を少なからず受けている印象ももちろんあるけれども、ジェラール・グリゼーとかトリスタン・ミュライユらのスペクトル楽派の流れを、広げている第二世代というか。サーリアホさんが独自に変換、脱構築して、それをさらにサーリアホさん流の解釈で包んで、自分の声として、しっかり作品を作っている、丁寧に音楽を作る作曲家だと思います」

 音楽稽古は、まず3日間の弦楽四重奏のみのリハーサルから始まった。

「今回のオペラのために集まったメンバーが本当に素晴らしいんです。そしてそれを指揮者のクレマンさんが的確に完璧にサーリアホさんの世界に招いてくださって。彼はサーリアホさんの作品に精通されているので、なんの心配もなく、4人とも終始和やかな雰囲気でリハーサルできたんです。そこから参加する演奏者がどんどん増えていって、今日は初めてダンスの森山開次さんも入って全員でのリハーサルでしたが、サーリアホさんの音楽のなかにいるような感覚で演奏できました。
 サーリアホさんは本当に緻密に的確に、彼女のやりたいことを音符で残しているので、演奏家サイドに全然迷いがないんですね。すごく有機的に一つになれるように書かれている。楽譜が的確に作れられているので、全員で彼女の空気を共有できる。
 だから出演者が誰一人として変に緊張していなくて、エレクトロニクスのオペレーターの方や、演出のバリエールさんも含めて、もうチームみたいな感じになっているので、素晴らしい上演になると確信しています。もうすでに8割ぐらいできているんじゃないですか。でもそこからまたどんどん変わっていくし、1回限りの上演というのがもったいないですね」

左:成田逹輝 右:森山開次 写真提供:東京文化会館

 現代音楽の面白さは、新たな視点を提供してくれることだと語る。

「伝統とされているもの、ある一定の概念で決まっていたものを、別の方向から見てみること。私たちの社会でも、たとえば最近、性スペクトラムの問題が提起されていますよね。男女の性差というのは本当はグラデーションで、完全に男とか女に分かれてはいないんだという。社会変化とともに、考え方の自由度や多様性もどんどん高まっている。そんな新しい見方へ移行することを、音楽で実現できるのが現代作品の魅力だと思います。今の時代に一番合っているんじゃないですか?」

 日本の古典芸能もヨーロッパの先端の現代音楽も脱構築した新しいオペラ。柔軟な視点で、サーリアホが彩色した空気をそのまま感じたい。


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「お客さんにとっての肌感覚がより鮮明に見えてくるようなことができたらいいなと思います」
 〜森山開次(ダンス・振付)インタビュー


【information】
東京文化会館 舞台芸術創造事業〈国際共同制作〉
カイヤ・サーリアホ作曲:オペラ《Only the Sound Remais −余韻−》

2021.6/6(日)15:00 東京文化会館 大ホール

第1部:Always Strong 原作:能『経正』
第2部:Feather Mantle 原作:能『羽衣』
上演時間:約2時間(休憩1回含む)

指揮:クレマン・マオ・タカス
演出:美術・衣装・映像:アレクシ・バリエール
美術:照明・衣装:エディエンヌ・エクスブライア
音響:クリストフ・レブトレン
舞台監督:山田ゆか

出演:
ミハウ・スワヴェツキ(カウンターテナー)(第1部:経正/第2部:天女)
ブライアン・マリー(バリトン)(第1部:行慶/第2部:白龍)
演奏:東京文化会館チェンバーオーケストラ
(第1ヴァイオリン:成田逹輝、第2ヴァイオリン:瀧村依里、ヴィオラ:原裕子、チェロ:笹沼樹、カンテレ:エイヤ・カンカーンランタ、フルート:カミラ・ホイテンガ、打楽器:神戸光徳)
コーラス:新国立劇場合唱団
 (ソプラノ:渡邊仁美、アルト:北村典子、テノール:長谷川公、バス:山本竜介)

問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
https://www.t-bunka.jp