ピーター・ウィスペルウェイ(チェロ)

今生まれ出ずるベートーヴェン

(C)Hang-Jin Cho
(C)Hang-Jin Cho
 ウィスペルウェイのコンサートは、いつも刺激的だ。それは“今この瞬間に音楽が生まれ出る”感覚に充ちているからである。彼はプロフィールの通り「古楽器と現代楽器を最高水準で弾き分ける現代最高のチェリスト」「最もカリスマ性のあるソリスト」の一人であり、なめらかなテクニック、圧迫感のない軽やかな奏法、自在に舞うようなフレージングを特徴としている。そして楽器や時代の枠を超え、バッハもブリテンもライヴな音楽としてしなやかに提示し、楽曲の本質や新たな魅力を自然と浮き彫りにしていく。
 今回彼は、「オール・ベートーヴェン・プログラム」によるリサイタルを行う。演目は、ソナタ第2・3・5番に「魔笛」の変奏曲2曲。初期、中期、後期(の入り口)のソナタが揃ったエッセンス的な選曲が成され、作風の変化と演奏の特徴を端的に知ることができる。
 彼はベートーヴェンのチェロ作品全集を、1991年にピリオド楽器でパウル・コーメンのフォルテピアノと、2004年にはモダン楽器でデヤン・ラツィックのモダン・ピアノと共に録音している。自身後者の解説で「以前はメトロノーム指示を参考にしたが、今回はそれに従うまいと決意した」と語っており、演奏は自在の表現で爽やかさをも感じさせる。それから10年、今回のパートナーは「古楽器と現代楽器の両方を弾きこなすピアニスト」パオロ・ジャコメッティ。つまり前2作以上に自身と方向性が近い奏者である。さてそこでいかなるベートーヴェンが生まれるか?さらにまた前言に変化は? 常に“ライヴな”ウィスペルウェイだから、これはもう足を運ぶ以外にない。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2014年2月号から)

★3月12日(水)・紀尾井ホール 
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 
http://www.japanarts.co.jp

他公演(プログラムが異なります)
3/14(金)・トッパンホール(03-5840-2222) Lコード:37973