郷古 廉(ヴァイオリン)

復活するフェスティバルで弾くベートーヴェンのコンチェルトに思う

 ヴァイオリニストの郷古廉が「ローム ミュージック フェスティバル2021」に出演し、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を演奏する。郷古は、2010年度から12年度まで「ローム ミュージック ファンデーション」の奨学生としてウィーンで学んだ。

 「僕が習いたい先生(パヴェル・ヴェルニコフ)がウィーンで教えていたので、16歳のとき、留学しました。12歳の頃、メニューインコンクール(ジュニア部門)に出る直前に、東京でヴェルニコフ先生のマスタークラスを受けることができましたが、非常に良いレッスンで、彼のパワフルな音楽や音に魅了されたのです。その後、フランスやドイツでもマスタークラスを受け、ウィーンで本格的に習いたいと伝えました。最初は大学の予備課程に入り、17歳で大学に入学しました。2010年から12年の間といえば、東日本大震災があり、それは僕の中で大きなことであり、今につながる精神的な変化もありましたね。僕の人生にとって非常に重要な期間であり、この勉強の期間を可能にしてくれたローム ミュージック ファンデーションにはとても感謝しています」

 パヴェル・ヴェルニコフはウィーン市立音楽大学で教える高名なヴァイオリン教師。
「僕は彼のパーソナリティが大好きなのです。たまに会って話すだけでも大きなインスピレーションを与えてくれるような人。彼のレッスンは、ヴァイオリンの奥深さや、作品にはまだまだ魅力があり、やることがあるというのを教えてくれ、好奇心をくすぐるものでした」

 一昨年まで暮らしていたウィーンという都市については、「モーツァルト、シューベルト、ベートーヴェン、ブラームスがいた街ですから、彼らがいた景色や建物を見て、彼らを身近に感じることができただけでも大きな経験だったと思います」。

 ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は一番多く弾いている協奏曲かもしれないという。
 「17歳のとき、スペインのマドリードで弾いたのが最初だったと思います。一見シンプルなようですが、内容は、とても密度の濃い世界です。基本的には音階やアルペジオばかりですが、一音一音の質量がものすごくて、演奏すると骨の髄まで疲労感を覚えます。そんな重さがあります。第1楽章のカデンツァはブゾーニ版を使います。ティンパニや弦楽器も入り、そんなに長くはありません。僕は、クライスラーやヨアヒムらのロマンティックなカデンツァも大好きですが、ブゾーニ版はベートーヴェン的な武骨さや不器用さがあり、気に入っています」

 郷古は、近年、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏に取り組んでいたが、昨年末にはオーケストラの一員として交響曲全曲演奏にも参加した。
 「小林研一郎さんの指揮で、去年の大晦日、ベートーヴェンの交響曲全曲を弾きました。交響曲は作曲家が精魂込めて書いているジャンルですが、ベートーヴェンの初期から晩年までの交響曲を一気に弾き終えて、何という人、どういう人生を歩んだらこういう境地になるのだろう、という不思議な気持ちになりました。ベートーヴェンは、自分の中に哲学があり、深く内容のある文章を書く人でしたが、それを残そうとしたとき、文字ではなくて音符であってよかったとすごく思います。楽譜として残してくれて本当にありがとうという感じですね。ドイツ語が話せなくても、みんなに伝わる。それが音楽の強みですよね」

 共演は下野竜也指揮東京交響楽団。下野との演奏も久しぶりで楽しみだという。
 「昨年、(コロナ禍によって)『ローム ミュージック フェスティバル』が開催できなくなりましたが、今年はできるであろうということ、それだけで普段とは違う意味のあるコンサートになると思います。フェスティバルの復活、文化の復活であってほしいし、それにこういう形で参加でき、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を演奏できることを誇りに思います。感慨深いコンサートになるだろうという気がします」
取材・文:山田治生 写真:藤本史昭
(ぶらあぼ2020年4月号より)


Profile
1993年生まれ。ティボール・ヴァルガ シオン国際ヴァイオリン・コンクール優勝など各賞に入賞。勅使河原真実、ゲルハルト・ボッセ、辰巳明子、パヴェル・ヴェルニコフの各氏に師事。2007年のデビュー以来、多くのオーケストラと共演。17年から3年間にわたりベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏に取り組んだ。1682年製ストラディヴァリ(Banat)を個人の所有者の厚意により貸与される。

Information
ローム ミュージック フェスティバル 2021
2021.4/24(土)、4/25(日) ロームシアター京都


オーケストラ コンサート Ⅱ 
ベートーヴェン・コンチェルトの夕べ
2021.4/25(日)17:00 ロームシアター京都 メインホール

出演/下野竜也(指揮)、郷古 廉(ヴァイオリン)、菊池洋子(ピアノ)、朝岡 聡(ナビゲーター)、東京交響楽団
曲目/ベートーヴェン:「コリオラン」序曲 op.62、ヴァイオリン協奏曲 op.61、ピアノ協奏曲第3番 op.37

問:エラート音楽事務所075-751-0617 
https://micro.rohm.com/jp/rmf/activity/rmfes/2021
https://curtaincall.media(配信)

※ローム ミュージック フェスティバル 2021の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。