原田慶太楼(指揮)

日本の音楽の歴史に何かを残したいと思っています

   このところ日本で引く手数多の指揮者・原田慶太楼は、高校時代から過ごすアメリカやロシアで指揮を学び、アシスタントなど様々な経験を経て、2020年からジョージア州のサヴァンナ・フィルハーモニックの音楽&芸術監督を務めている。日本では、14年12月に逆輸入の形でデビュー後、多数の楽団に客演。今年4月には東京交響楽団の正指揮者に就任する。

 「東響は、16年11月以来19公演振っている、日本で最も共演回数の多いオーケストラ。そうした縁もありますし、他のオケとの関係を継続しながら長いスパンのプロジェクトができる“正指揮者”は、今のキャリアに最も当てはまるポストだと思いました。東響は私がやりたいことをストレートに受け入れながら会話をしてくれる、いわば“分かち合える”オーケストラ。演奏スタイルにフレキシビリティがあり、レパートリーもワイドですから、タイトルを持つことで自分の色やサウンドを探れるのが楽しみです」

 4月定期「正指揮者就任記念コンサート」では、ティケリの「ブルーシェイズ」、バーンスタインの「セレナード」(ヴァイオリン:服部百音)、ショスタコーヴィチの交響曲第10番を披露する。

 「こだわりのプログラムです。いまの自分と同じ年齢の時に作曲された曲を振りたいと思っていて、該当する35、6歳時の作品として選んだのがバーンスタインの『セレナード』。音楽を始めたきっかけが『ウエスト・サイド・ストーリー』なので、彼の作品は記念コンサートにもふさわしいかと。次に、プラトンの『饗宴』を扱ったこの曲同様、人物をテーマにした作品を探して、同時期の1953年に、この年亡くなったスターリンを扱ったショスタコーヴィチの交響曲第10番を選びました。そして私がアメリカに渡って最初に吹奏楽で作品を演奏した作曲家ティケリの『ブルーシェイズ』を。彼は吹奏楽では神様的存在ですが、管弦楽曲を日本に紹介したいと考えました。これで私の音楽的ルーツのアメリカとロシア、さらには得意のジャズの要素を打ち出しました」

 各曲についての思いも深い。
 「『ブルーシェイズ』はジャジーで“カッコイイ”音楽。『セレナード』もリズムのノリがよく、弦とパーカッションだけでビッグバンド風の色を作れる点が魅力です。それにヴァイオリン独奏がえらく難しい。服部百音さんとは2019年に大阪交響楽団でこの曲を共演しているので、今回もお願いしました。音楽への愛が熱く、感性がピュアな奏者で、若い彼女のアスレチックな演奏はこの曲にも合っています。ショスタコーヴィチの10番は彼の交響曲の中で一番まとまっている作品。DSCH音型をはじめ色々な要素が含まれていますが、私はショスタコーヴィチのスターリンへの思いをメインにアプローチしたい」

 東響では1年に複数の公演を指揮するが、最もエネルギーを注ぐのは「こども定期演奏会」の「新曲チャレンジ・プロジェクト」だという。
 「私は日本の音楽史に何かを残したい。そこで最初に打ち出したのが“新作”。公募で子どもたちに書いてもらったメロディから、6つ選んでウェブサイトに載せました。そして30歳以下の作曲家にその中から最低2つを使って5分の曲を書いてもらうのです。今年のテーマは『踊り』。また、作曲家のパーソナリティも重視したいので、自分のプロモーション・ビデオも送ってもらいます。その両方を見て作曲家を一人選んでから、6ヵ月かけて作品と作曲者を育て、完璧に仕上げたものを12月の『こども定期演奏会』で披露します。さらに他のオケや指揮者にも取り上げてもらうなど、初演後も生き延びる作品にしたいと考えています」

 これは彼が見据える「日本人の指揮者である以上、日本人作曲家を海外に広めていく」といった指揮者像にも通じる、意味深いプロジェクトだ。

 なお、本拠で受け持つサヴァンナ・フィルは「今アメリカで有観客公演を行っている唯一のオケ」。こちらは“監督”なので責任が重く、「アメリカの音楽監督で一番大事なのはスポンサーを探しお金を持ってくること。日本にいる時も夜11時から朝7時までその仕事をしています」と語る。
 現在欧米での活動は限られるが、日本では公演が目白押し。東響という軸を持った彼の今後が大いに楽しみだ。
取材・文:柴田克彦 写真:藤本史昭
(ぶらあぼ2020年4月号より)

Profile】
アメリカ、ヨーロッパを中心に目覚しい活躍を続けている。2020年アメリカジョージア州サヴァンナ・フィルハーモニックの音楽&芸術監督に就任した。21年4月からは東京交響楽団正指揮者に就任する。1985年東京生まれ。インターロッケン芸術高校音楽科において、指揮をF.フェネルに師事。20歳でジョージア州メーコン交響楽団アシスタント・コンダクターに就任。ロシアのサンクトペテルブルクでも指揮を学び、21歳のときにモスクワ交響楽団を指揮してデビューした。

Information
東京交響楽団 第689回 定期演奏会
原田慶太楼 東京交響楽団 正指揮者就任記念コンサート

2021.4/17(土)18:00 サントリーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
https://tokyosymphony.jp