バッハ・コレギウム・ジャパン ベートーヴェン「運命」とハ長調ミサ曲

今こそ“苦悩から歓喜へ”、そして“安らぎの世界”へ 

鈴木雅明
C)Marco Borggreve
 毎年恒例のバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)による彩の国さいたま芸術劇場公演。今年は生誕250年を記念して、同ホールでは初のベートーヴェン・プログラムが披露される。しかも交響曲第5番「運命」&ミサ曲ハ長調という普段まず聴けないカップリングだ。第5交響曲は“苦悩から歓喜へ”を具現化した作品。深刻なハ短調に始まり、明るいハ長調に到達する。そしてそれを受け継ぐ形で、優美さと劇的表現が溶け合ったハ長調のミサ曲が奏され、安らかな境地に至る。この構成は現在の状況下にすこぶる相応しい。しかも両曲はほぼ同時期の作品。すなわちミサ曲ハ長調は、中期“傑作の森”を形成する明快かつ密度の濃い音楽だ。「ミサ・ソレムニス」の陰に隠れて上演機会の少ない同曲を、最高水準の演奏で生体験できるとなれば、それだけでも足を運ぶ価値がある。

 今年創立30周年を迎えたBCJは、言うまでもなく世界的な古楽アンサンブルだが、近年は古典派以降の作品でも清新な名演を展開し、指揮の鈴木雅明はモダン・オケでも卓越した手腕を発揮している。それに彼らは2019年にベートーヴェンの「第九」を取り上げ、ピュアにして引き締まった、ヒューマンな表現を聴かせてもいる。よって今回の両曲への期待値は極めて高い。むろん宗教曲を得意とするソリスト陣と粒揃いの合唱も大きな強み。この公演を604席のホールで聴くのは実に贅沢だし、別日に行われる鈴木雅明のレクチャー(11/21)を聞けば、さらに理解が深まるであろう。

 今こそ、作品誕生時の瑞々しい響きで、“暗から明へ”の世界を体感したい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2020年11月号より)

2020.11/29(日)15:00 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール 
問:SAFチケットセンター0570-064-939 
https://www.saf.or.jp

他公演
2020.11/28(土)東京オペラシティ コンサートホール(バッハ・コレギウム・ジャパン チケットセンター03-5301-0950)