NHK交響楽団首席ホルン奏者、福川伸陽がとんでもないディスク、『孤高のホルン 映画の世界 ABSOLUTELY FUKUKAWA』(キングレコード)を完成した。収録したのはジョン・ウィリアムズの『スター・ウォーズ』組曲と『ジュラシック・パーク』、アラン・シルヴェストリの『フォレスト・ガンプ』組曲、ジェームズ・ホーナーの『タイタニック』組曲にルキーノ・ヴィスコンティ監督の映画『ベニスに死す』に使われたグスタフ・マーラーの交響曲第5番第4楽章〈アダージェット〉の5作品。
「なあんだ、“ホルン吹きの休日”みたいに軽い、スクリーンミュージックの名曲集だね」などと考えるのは、まったくの早とちり。Absolutely(アブソルートリー)を英和辞典で引くと、「絶対的に」「完全に」などの日本語が並ぶ。そう、演奏者は福川1人。最大でホルン8本分を自身の演奏だけでこなした多重録音である。
長く温めてきたアイデアだが、福川は「収録にとっても時間がかかることが予想されたため、泣く泣く諦めざるを得ませんでした」と振り返る。それが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大で演奏会が軒並み中止・延期となって時間ができたうえ、1人なら「密」も心配ないとして、実現に踏み切ったのだ。
完成までは至難の連続だったらしい。「伴奏やバスラインから録音しても、推進力や雰囲気が感じられなければ音楽として成立しない」「メロディから録り始めても、伴奏の和声やバスラインの音楽を感じなければ美しいメロディたり得ない」という二律背反の克服で辿り着いた解決策を、福川はライナーノートに4点、箇条書きで記した。実に面白いので、そのまま転載してみよう。
1)仮でメロディを思う存分音楽的に演奏する
2)そのメロディを聴きながら、バスラインを録音する
3)メロディとバスラインを聴きながら、間のハーモニーチームを充実させていく
4)最初の仮メロディを消し、今度はハーモニーの移り変わりとバスの方向性をじゅうぶんに楽しみながらメロディを再録音する
実に手が込んでいるのだ。仕上がった演奏はプロセスの労苦を微塵も感じさせず、映画ファンでもある福川が「お気に入りの作品」への思いのたけを、手を替え品を替えてホルンの多彩でゴージャスな響きに託して思う存分、語りかけるような味わいに満ちている。
トーマス・マンの小説を原作とするヴィスコンティ映画『ベニスに死す』の主人公、作曲家のグスタフ・フォン・アッシェンバッハは20世紀初頭のヴェネツィアで感染症(コレラ)のために亡くなる。「コロナの時代」を想起させる〈アダージェット〉の余韻とともにディスクも幕を閉じる。
文:池田卓夫
【CD】孤高のホルン 映画の世界
福川伸陽(ホルン)
スター・ウォーズ 組曲(ジョン・ウィリアムズ/小林健太郎編)
フォレスト・ガンプ 組曲(アラン・シルヴェストリ/小林健太郎編)
ジュラシック・パーク(ジョン・ウィリアムズ/小林健太郎編)
タイタニック 組曲(ジェームズ・ホーナー/小林健太郎編)
ベニスに死す アダージェット〜交響曲第5番(グスタフ・マーラー/大橋晃一編)
キングレコード
KICC-1551 ¥3,000+税
2020.10/28(水)発売
【Information】
●福川伸陽さんがOTTAVAに出演!
10/23(金)13:00〜17:00 午後のワイド番組「OTTAVA Andante」に福川さんが出演。
NEWアルバム「孤高のホルン」について、たっぷり語っていただきます。
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