第44回(2012年度)「サントリー音楽賞」と 第12回(2012年度)佐治敬三賞の贈賞式が25日、東京・赤坂のサントリーホールで行われ、藤村実穂子(サントリー音楽賞)、加藤訓子、宮田まゆみ(佐治敬三賞)がそれぞれ受賞した。
「サントリー音楽賞」(旧名・鳥井音楽賞)は、公益財団法人 サントリー芸術財団が1969年の設立以来、わが国における洋楽の振興を目的として、毎年、その前年度においてわが国の洋楽文化の発展にもっとも顕著な功績のあった個人又は団体を顕彰するもの。賞金は700万円。
藤村実穂子は、2002年のドイツ・バイロイト音楽祭デビュー以来、欧米のクラシック音楽界において欠かせない存在で、日本が世界に誇る歌手。2012年には、パリ・シャンゼリゼ劇場におけるワーグナー《パルジファル》のクンドリ役(3月)、ロンドン・コヴェントガーデン歌劇場における同《神々の黄昏》のヴァルトラウテ役(10月)などで活躍、日本での演奏活動では、とりわけドイツリートにおける成果が目覚ましく、マーラー《大地の歌》(11月、いずみホール、室内合奏版)が、その白眉と評価された。またマリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団来日公演のベートーヴェン《交響曲第9番》では、高度なアンサンブル能力をも示した。
受賞に際し藤村は「音楽家は、作曲家がどのような音を意図していたのかを想像し、表現します。人の声を聴こうとコンサートホールに足を運んでいただく方々のためにも日々の研鑽が大事です。当初ヨーロッパでは、アジア人でかつメゾソプラノということで、なかなか使っていただけず苦労しました。それでも、アバドやメータなどの巨匠たちが実穂子といっしょにやりたいとおっしゃってくださるようになり、今では藤村実穂子じゃないと指揮しないというオファーまでいただくようになりました。芸術には完璧はありませんが、よい音楽をよりよく歌うというのは可能です。今回の受賞は、これまでの辛かった、しんどかった経験に対しての労い、と同時に、もっとがんばりなさいと言ってくださっているような気がする。これからも精進したい」と喜びを語った。
「佐治敬三賞」は、わが国で実施された音楽を主体とする公演の中から、チャレンジ精神に満ちた企画でかつ公演成果の水準の高いすぐれた公演に贈られるもので、2001年度(平成13年度)公益財団法人サントリー芸術財団(代表理事・堤剛、鳥井信吾)により制定された。賞金は200万円。
加藤訓子は、スティーヴ・ライヒのカウンターポイント・シリーズに焦点をあてた「kuniko plays reich in Kyoto」(2012年3月・京都芸術センター講堂)で、演奏、音響、編曲の全てにおいて強い意志が感じられる演奏会であったことが評価された。
加藤は「2000年からソロ活動を始め、がむしゃらにやってきました。10年すぎて少しだけ自分にできることやりたいことが見えてきました。それを一つずつ形にしてきた結果としていただけた賞だと思います。いまもまた新たなことにチャレンジしたいと思っています。これからもそうした一つ一つを積み重ねていきたい」と語った。
宮田まゆみは、ジョン・ケージの生誕100年を記念して、作曲家の誕生日の晩に行ったOne9の全曲再演「Sep.5 2012 Thanks to John Cage」(2012年9月・サントリーホール ブルーローズ)の演奏時間2時間10分あまりにおよぶという困難な企画を実現し、素直な解釈を示すことによって、ケージの音楽へと多くの聴衆を巻き込んだ力量が高く評価された。
宮田は「もう一度ジョン・ケージさんに、そして、聴衆として集まっていただいたみなさんにも感謝を捧げたい。ケージさんは音への感動を呼び覚ましてくれました。これからも勉強し、音への感動、驚きをみなさんと共有していきたい」と語った。
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