ケルティック・クリスマス2019

幸せを咲かす音楽

左より:シャロン・シャノン、We Banjo 3 C)石田昌隆、タリスク

 地球上にはいろいろな音楽がある。聴けばきっと面白いのに、きっかけがないとなかなか触れないものだ。ほんとうは自分で探すのが楽しいし、たまたまの出会いが貴重だけれど、かといっていきなり現地にケルト音楽を探しに行くのもたいへん。ラグビーワールドカップでジャパンがアイルランド、スコットランドといい試合をしたり、スタジアムや街角で一緒に応援したり、ただそれだけでも彼らの音楽に近づくきっかけとしては充分だと思う。

 そこで、今年の「ケルティック・クリスマス」。20年来ケルト音楽の伝統と同時代の実験を多彩に紹介してきたこのコンサートは、この冬もいまをときめく才能を3組招いている。彼らを知っていても、いや、むしろ知らなくても、アイルランドとスコットランドの伝統音楽の先端に触れるにはまたとない機会だろう。

 懐かしさと新しさ、古き佳きものといまを生きる心――これは音楽にかぎらず、なんにしても大切なことだが、ふだんクラシック音楽に親しんでいれば、なおさらだろう。ヴァイオリンやクラシック・ギターがお好きな方であれば、フィドルを筆頭に弦楽器のもうひとつの歴史と流れを知っておくのもわるくないし、ぐっとふつうの人々の暮らしに近いところからコンサートホールへと旅立ったのが、彼らストリートの感覚をもつ個性たちである。

 超絶技巧への情熱は、どの楽器のヴィルトゥオーゾも変わらない。ケルトの名手の指さばきとリズムは、熱と生気に充ちている。アコーディオンに喜びをのせるシャロン・シャノンは、広いジャンルで愛されるアイルランドきってのスター。祖先が移り住んだアメリカでブルーグラスやブルースとも融合してきたから、全米も席巻する人気バンド「We Banjo 3」が鮮やかに結んだように、ちょっと意外にみえるケルト音楽とバンジョーの組み合わせも奥行きのあるものだ。スコットランドの新鋭「タリスク」は、コンサーティナというアコーディオン/バンドネオン系の伝統楽器と、ギター、フィドルの技巧派トリオで、アンサンブルの精度が高い。勢いに乗る者どうし、互いに交流もあるから、三者三様のステージだけでなくセッションも期待される。即興の熱気はもちろん、どんな響きが織りなされるか楽しみだ。

 音楽はいちばん速い移動手段でもある。12月の一夜だけでも、アイリッシュとスコティッシュ、寒い国からきた陽気な夢をみよう。それは、幸せを咲かせる音楽。きっと小刻みに身体を揺らして、踊り出したくなる。
文:青澤隆明

2019.11/30(土)15:00 福井県立音楽堂 ハーモニーホールふくい
12/1(日)15:00 よこすか芸術劇場
12/7(土)15:00 長野市芸術館メインホール
12/8(日)17:15 すみだトリフォニーホール
問:プランクトン03-3498-2881
http://plankton.co.jp/xmas19/
※出演者の各単独公演も有り。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。
※11/30 福井公演は、シャロン・シャノン、タリスクは2組の出演になります。