松本和将(ピアノ)

フランスで生まれたピアノ作品の傑作を集めて


 松本和将はソロ、アンサンブルと幅広い演奏活動を展開するピアニスト。ソロの演奏活動での主軸となっているのは2016年から開始した「松本和将の世界音楽遺産」と名付けたリサイタルシリーズ。第4回を迎える今回は、松本がこれまでの演奏活動であまり取り組んでこなかった、フランスものを中心としたプログラムだ。

「これまでドイツとロシアの作曲家の作品を中心に扱っていましたが、フランスの作曲家にもそろそろ取り組まなくては、と。特にその後押しになったのはフランクの『プレリュード、コラールとフーガ』です。この曲は若い頃からずっと演奏していて、エリーザベト王妃国際コンクールでも演奏した思い出の曲です。哲学的で宗教性のあるこの曲の独特の重厚さに惹かれます」

 新たに今回フランスの作曲家に対峙することで様々なものが見えてきたという。

「大切にしてきたフランクの作品が改めて好きになりましたし、ラヴェルの作品に漂う透明感、過去を見つめる眼差しや孤独感を見出せるようになってからは、ラヴェルの世界にさらにはまっていきました」

 松本のこれまでのレパートリーや演奏会のプログラムを見ていると、規模が大きく精度の高い技巧を求められる作品を並べていることが多い。その在り方は、まるで常に自分に“挑戦”し続けているかのように見える。

「あえて難しいものをやってやろう、ということを考えたことはありません(笑)。ただやはり規模の大きいものや演奏の困難な作品はそれだけ魅力がありますし、そもそも小品をたくさん並べるよりも、大曲の構造を紐解いていくのが好きなんです。ドイツに行ってから、本当に分析をすることが大好きになってしまって…。分析をしていくと、作品がすべてつながっているんだな、ということが改めて見えてくるんです。それがそのまま自分の中で物語になってゆく感じがあります」

 リサイタルに向けて、松本はさらに作品を紐解く作業を継続中。この作業の中では演奏曲以外の曲に触れることも重要だという。

「今、ラヴェルのほとんどの作品を新たにさらい直しています。そうすることで改めて彼の書法の精緻さに出会うことができ、演奏曲のヒントも見えてくるんです。ある音型が、別の場所ではどのような役割や性格を見せていたかを考えることで違う見え方もしますし、テンポも変わってくるんですよ」

 作品だけでなく、作曲家そのものにも誠実に向き合う松本。今回のリサイタルは演奏家としての新たなステージへの一歩を見せてくれるはずだ。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2019年11月号より)

松本和将の世界音楽遺産 シリーズ第4回 フランス編
2019.11/24(日)16:00 東京文化会館(小)
問:クロスアート e-mail:ongakuisan@cross-art.co.jp 
http://www.kaz-matsumoto.com/