マリインスキー歌劇場の名歌手たちによる名作オペラへの想い
内装の華麗さに「さすが帝都のオペラハウス」と唸ってしまうサンクトペテルブルクのマリインスキー歌劇場。ロシアの名だたる大作曲家が名作を発表したが、中で最も悲愴感を漂わせ、心に沁み入るオペラがチャイコフスキーの《スペードの女王》(1890)である。物語は、士官ゲルマンと貴族階級の娘リーザの抑えきれぬ恋に、カードの秘術を知る老伯爵夫人が巻き込まれ、リーザの婚約者エレツキー公爵がプライドをかけてゲルマンに勝負を挑むと、最後はカードに裏切られた士官が自殺するというもの。プーシキンの原作を広げた台本により、娘と士官がどちらも世を去ることで、ドラマの悲劇性が一層高まり、客席に深い余情をもたらすのである。
今秋の来日公演でゲルマンを演じるテノール、ミハイル・ヴェクア(11/30)は歌劇場の新進スター。明るく強い声音で人気の彼、「第1幕の雷雨の場で、ゲルマンは『僕は厳粛に誓う。リーザは僕のものになる!』と絶唱します。彼の情熱は雷鳴を超えて轟くのです」と熱く語る。一方、敵役でも紳士的な態度を崩さぬエレツキー公爵役はべテランのバリトン、ロマン・ブルデンコ(両日)。この役では何より、リーザに切々と愛を訴える第2幕の名曲が聴きものだが「あのアリアは声のテクニックがそれは難しいんです。でも、成功すれば本物のエメラルドのように輝きます!」とにこやかに伝えてきた。A.ステパニュクの壮麗かつ頭脳的な新演出と共に、彼らの美声を堪能してみたい。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2019年10月号より)
2019.11/30 (土)、12/1(日) 各日15:00 東京文化会館
問:ジャパンアーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp/tf2019/
※チャイコフスキー・フェスティヴァル2019の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。