ドイツの歌劇場でのキャリアが長い上岡敏之が、コンビを組んで3年目の終盤に手兵を指揮した、ワーグナー・プログラムのライヴ録音。弦と管が溶け合った柔らかなサウンドで流麗かつ濃密に表出された、日本では滅多に聴けないワーグナー演奏だ。全体に甘美な魅力が横溢。シンフォニックな起伏ではなく、“歌の抑揚”ともいうべきフレージングで奏でられる息の長い音楽が、大言壮語せずして同作曲家の魔力を伝えてくれる。中でも《トリスタンとイゾルデ》は録音によってより美しさが際立っているし、《パルジファル》の精妙にして荘厳な表現にも大いに酔わされる。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2019年12月号より)
【information】
SACD『ワーグナー:タンホイザー、トリスタンとイゾルデ、神々の黄昏、パルジファル/上岡敏之&新日本フィル』
ワーグナー:《タンホイザー》より序曲とバッカナール(パリ版)、《トリスタンとイゾルデ》より第1幕 前奏曲、第3幕「愛の死」、《神々の黄昏》より第1幕「ジークフリートのラインへの旅」、第3幕「ジークフリートの死と葬送行進曲」、《パルジファル》より第1幕 前奏曲、第3幕 フィナーレ
上岡敏之(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団
収録:2019年5月、サントリーホール&横浜みなとみらいホール(ライヴ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00703 ¥3200+税